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ホーム > 未分類 > 【ラブライブ!】希「ギャグまんが体質」

【ラブライブ!】希「ギャグまんが体質」

2018年04月04日 3:00:16 , JST | 未分類
  2018/04/01(日) 21:26:36.43


頂き物のタイトルと設定で書いたss

「希」

「んー?」

「どういうつもりなの」

「…なんや、えりち。怖いカオして。せっかくのべっぴんさんが台無しやよ」

「貴方まで、私の頭を悩ませないでちょうだい」

「嫌やなあ。ウチがいつえりちを悩ませるようなことしたんよ」

「あの子たちに荷担するのはどうしてなの? どうしたって、認めるわけにはいかないのに」

「ウチは生徒会の副会長やからねえ。迷える生徒には手を差し伸べる義務があるんよーーそれに」

えい、と人差し指をぎゅうっと寄せられた眉根に立てる。

顔をしかめるものの、されるがままで避けたりはしない。

「ウチは誰よりも、えりちに笑顔になってほしいからね」

奇跡のカケラが揃うまで、後もう少し。

***



  2018/04/01(日) 21:26:36.43

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      2018/04/01(日) 21:27:09.06


    ***

    「また来ます!」

    「もう来なくていいわ」

    「失礼しました」

    駆け出していくサイドテールと、丁寧なおじぎをしてから戸を引く流れる黒髪。

    対照的にも見える二人の姿は、それでもなぜか妙にしっくりと感じられて。

    「や、穂乃果ちゃん。海未ちゃん」

    つい声を掛けたくなってしまう。



      2018/04/01(日) 21:27:44.92


    「あ! 希先輩」

    「こんにちは、希先輩」

    「またえりちのとこ来とったんやね」

    「はい! 私、生徒会長に認めてもらえるまで諦めませんから!」

    ぐっと拳を握って見せる。

    瞳には爛々と輝く強い意志。

    あの冷たく燃える氷色の炎に、めげずに何度でも立ち向かえるのだから。

    この子はきっと、手強いよ。

    「あ! そういえば聞いてください! なんとね…」

    ごそごそとポケットを探り、取り出したのは小さく折られたメモ帳。

    実に見覚えのあるそれを嬉しそうにひらいて、

    「じゃーんっ! グループの名前が決まったんです!」

    穂乃果ちゃんは笑った。

    「『ミューズ』って読むんだそうです。ね、海未ちゃん」

    「はい。ギリシア神話にはあまり詳しくありませんが、読みは間違っていないはずです。芸術を司る女神たちの名だったと記憶しています」



      2018/04/01(日) 21:28:18.56


    「……へえ。ミューズ、良い名前やん」

    「そうですよね!」

    「うん。芸術を司るっていうんも、アイドルにはぴったりやしね」

    「でも名前が書いてなくって…誰が入れてくれたんだろう」

    ふと、脇に立つ海未ちゃんと目が合う。

    「…あの、希先輩。私の勘違いかもしれないのですが、この名前を下さったのはもしかして、」

    「あ〜っとぉ。えりち待たせっ放しなんやった。そろそろ行かなウチが大目玉喰らってまうなあ」

    「あ、希先輩」

    「ほな、またな〜」

    「…海未ちゃんには要注意やねえ」

    ***



      2018/04/01(日) 21:29:31.02


    ***

    「ただーいまっ」

    「お帰りなさい。遅かったわね」

    「そこで後輩ちゃんたちに捕まってもうてな」

    えりちはチラリとこちらを見遣って、すぐにまた手元の書類へと視線を戻す。

    「まあ良いわ。遅れた分しっかりと働いてくれれば文句なしよ」

    「相変わらず手厳しいなあ。はいはい、今やるよ」

    自席に着き、積まれた資料に目を通す。

    うーん、やっぱり慣れない。

    どうしても先生たちから雑務を分けてもらっているようにしか感じられない。

    横目には黙々とペンを走らせる生徒会長さまの姿。

    「…ま、そんな言うててもしゃあないもんな」

    ***



      2018/04/01(日) 21:30:56.51


    ***

    鳴り響くチャイムにふと顔を上げる。

    外は日が落ち始めて、赤と黒が景色を染めていた。

    「そろそろ切り上げよか」

    「もうそんな時間なのね。そうしましょうか」

    「疲れた〜」

    ぐぐーっと背伸び。

    おとなりさんはこきこきと首を鳴らしている。

    「アイスでも食べてく? 日が落ちても暑いなあ」

    「…寄り道は禁止よ。買い食いもね」

    「そうやったっけ」

    こくり、と唾を飲む音。

    伝う汗まで金色に見えるなんて、美人はずるいなあ。



      2018/04/01(日) 21:32:13.51


    人気の失せた校舎を、二人歩く。

    口をひらき掛けては閉じる友人。

    ふとして話したいことは山ほどあるのだろうに。

    まだ、氷は解けない。

    ***

    「ほなね」

    「ええ。また明日」

    ばいばいと手を振る。

    ばいばいと、控えめな仕草。

    どこか照れ臭そうに首を振り、えりちは背を向けた。

    しばらくその後ろ姿を見送ってから、同じく帰路に。

    私では、きっと氷は解かせない。

    私では、きっと…

    ………………

    …………

    ……



      2018/04/01(日) 21:34:06.23


    「××市から来ました、ーーーーです」

    ぼそぼそとした自己紹介。

    初めてだった。

    自分以外の転校生に出会ったのは。

    その子は贔屓目に見ても、そして自分を棚に上げずに見ても、クラスからひどく浮いていた。

    教室移動は一人で、休み時間は絵を描いていて、さようならの後は誰よりも早くいなくなった。

    教室移動に混ぜてくれたり、休み時間に話くらいはしたり、ばいばいと言い合ったり、それくらいの相手はいたから。

    それすらもないことが、ずっと気掛かりになっていた。



    10   2018/04/01(日) 21:36:08.21


    おはよう。

    なに描いてるの?

    次は音楽室だね。

    また明日ね。

    毎日それらの言葉を用意しては、ただただ溜め息となって消えていった。

    一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月…

    どれだけ日が経っても、一人は一人のままで、言葉が形を為すことはなかった。



    11   2018/04/01(日) 21:38:16.91


    ある日、今日こそはと決意を固めた。

    演劇発表会の日だった。

    半年も前から練習が重ねられてきた晴れの日に、なんの役目も与えられなかった者同士。

    一言だけでもいい、話し掛けよう。

    幸い時間はたっぷりあった。

    隣の隣のクラス、隣のクラス、順調に演劇は進む。

    やがて、何度も練習を見守った演目が開始された。

    その脇で、体操座りの二人きり。



    12   2018/04/01(日) 21:40:21.63


    さあーー今こそ。

    —-パチン

    ふと聞こえた気がしたそんな音が、今になって思い返すと忌々しいほどに。

    「ねえ、ーーさん。私、東條のぞみ…」

    「あ」

    「え?」

    気が付いたときには遅かった。

    足元に転がっていたガムテープを蹴飛ばしてしまった。

    それは端が上履きに引っ掛かった状態で、本体が走り出す。




      13   2018/04/01(日) 21:42:46.02


      「あ、ちょっ、待って…」

      ガムテープがそんなお願いを聞いてくれるわけもなく、舞台を端から端まであっという間に渡っていった。

      そして案の定。

      「うわあっ!?」

      どてん、と誰かが転んだ。

      「きゃあっ!?」

      どてん、と誰かが転んだ。

      どてん、どてん、どてん、どてんーーーー

      その舞台の上に最後まで立っていられた人は、一人もいなかった。

      ……

      …………

      ………………



      14   2018/04/01(日) 21:44:55.08


      会場は笑いに包まれ、咎められることも責められることもなかったけれど。

      クラスの演目は最下位の評価を下され、もう名前を思い出すこともできないあの子と、二度と言葉を交わすことはなかった。

      「…こんな日はおうどんさんやね」

      なんて。

      うどんを湯がく以外、ほとんどまともにできることなんかないだけだ。

      またうどんなの? 栄養が偏るわよーーと、彼女は呆れながらも笑ってくれるだろうか。

      いつものうどんをかごに放り込んで、レジへと向かった。

      ***



      16   2018/04/01(日) 21:47:24.25


      ***

      「ねえ見た? 人数増えてたね」

      「一年生がいっぱい入ったみたいだねー」

      ふと、そんな会話を聞いた。

      思わず口角が上がる。

      見上げる空には、どこからか聞こえてくる彼女たちの掛け声。

      音の発生源はーー上? 屋上?

      …そうか、彼女たちは屋上で練習を。

      今はまだ青く澄んだ空も、これからぐずつく季節になる。

      うーん…とわずかに悩んで、よし決めた。

      「もう引き合わせても大丈夫やろ」

      踵を返し、一階の教室へと歩みを進めた。

      ***



      17   2018/04/01(日) 21:49:28.88


      ***

      コンコン

      「にーこっち〜」

      内側にカーテンが引かれた窓からは、室内の様子は窺えない。

      けれど。

      コンコンコンコン

      「にーこっち〜〜」

      コンコンコンコンコンコン

      「にーこっち〜〜〜」

      コンコンコンコンコンコンコンコン

      「にー「うるっさいわよ!!」バン!!

      「やっほー、にこっち。やっぱりおったんや」

      ***



      19   2018/04/01(日) 21:53:53.66


      「別に、いつも通りスクールアイドルの研究してただけよ」

      「研究ってなにするん?」

      「ダンス観て、歌聴いて、だめなところを書き出すのよ」

      「それから?」

      「書き込むのよ」

      「へえ。しっかりファンやってるんやね」

      「はあ? 誰がファンなのよ」

      「えっ。わざわざホームページに指摘事項を書き込むなんて、相当熱心に追い掛けてるんやないの?」

      「ホームページなんかに書き込まないわよ。匿名掲示板」

      「…………」

      ふひひ、と怪しい笑い。



      20   2018/04/01(日) 21:56:58.14


      けれど、知っている。

      寂しさと悔しさから心を守るために、今は少し歪んでいるだけで、彼女が本当は誰よりも真摯に夢と向き合いたがっていることを。

      再び立ち上がるそのためには、信頼できる仲間が足りない。

      強引に闇から引き摺り上げて、なにがあっても一緒に隣を走ってくれる、そんな仲間が。

      そしてきっかけが必要だ。

      ほの暗い過去をぶち壊して、光と夢に溢れるステージに返り咲こうと決心できる、そんなきっかけが。

      にこっちに必要なものは、だからーー

      「で、あんた、なにしにきたわけ?」

      目にも留まらぬ速度でカタカタとキーボードを打ち鳴らしつつ、にこっちは言った。

      「そろそろ入部する気になった?」



      23   2018/04/01(日) 21:59:15.44


      「!」

      薄暗い室内。

      ディスプレイの明かりに側面を照らされただけの表情はよく見えない。

      その言葉は思えば久し振りで、けれど確かな想いが込められていて。

      「ウチは、」

      「…なんてね」

      タン、とエンターキー。



      24   2018/04/01(日) 22:01:21.07


      「あんたがスクールアイドルに興味ないのはよく知ってるわ」

      「にこっち、」

      「久し振りに聞いたら気まぐれな返事があるかなって思ったのよ。あんた、気まぐれだから」

      穏やかな笑みが向けられる。

      優しく、そしてーーどこか諦めたように。

      その刹那、脳内を駆け巡った言葉は、ひどく単純だった。

      ーーやるよ!

      スクールアイドル、やるよ!

      にこっちと一緒に!

      その一言が、言えたなら。

      「…や」



      26   2018/04/01(日) 22:22:35.24


      「嫌やなあ、もう。ウチには向いてないって何回も言うてるやん。可愛い衣装は着てみたいけどな」

      「…ふふ。あんたなら可愛い衣装も着こなせるわよ。キャラクターが変なだけで、見てくれは良いからね」

      「なんやそれ〜相変わらずいじわるやなあ」

      「あんたも…相変わらずね」

      「え?」

      ふっと笑みに陰が落とされたように見えた。

      それもすぐに掻き消える。

      「だったら、結局あんたほんとになにしにきたのよ」

      「それは、えっと」



      27   2018/04/01(日) 22:24:47.13


      「最近スクールアイドルやってる子らおるやん? ほら、あの」

      「μ’sでしょ」

      「そ、そうそれ」

      なんとか捻り出した話題に対し、あっさりとその名を口にした。

      決まってからそう日も経っていない、新しい曲の発表もライブも行われていないグループの名前を。

      やっぱり、気になってはいるのだろう。

      「頑張ってるよなあ、あの子ら。ウチはアイドルのことよう分からんけど一生懸命やし、」

      「全っ然だめね」

      ケッ、と唾でも吐き付けそうな勢いで。

      「ぜ、全然だめかなあ?」



      28   2018/04/01(日) 22:26:51.55


      「歌は下手くそ。ダンスも揃ってない。曲は…ちょっと良いけど、あんなのもう一曲でも書いたらネタ切れでしょ」

      「でもほら、聞いた話やと廃校を阻止するために立ち上げたってらしいし、心意気は充分やんな」

      「心意気だけでやってけるもんなら、誰もアイドルなんか目指さないわよ」

      「やけど、あんなに可愛い子らが6人も集まるなんてほんとに奇跡みたいな」

      「そこよ!」

      「えっ」

      「6人って」

      ばかにしたように鼻を鳴らす。

      「あかんの? 多過ぎ?」

      「逆よ、逆」



      29   2018/04/01(日) 22:28:54.59


      「『ミューズ』っつってんのに6人じゃ完っ全に名前負けじゃないの。芸術のカミサマだかなんだか知らないけど、あと3人は夢半ばで挫折でもしたのかってーの」

      ふと呆気に取られる。

      「にこっち、ミューズ知ってるんや」

      「は?」

      「や、ギリシア神話の女神なんて知らなさそうやのに…」

      「そんなん知らなかったわよ。調べただけ」

      事もなげに言ってみせる。

      思い出すーー彼女がまだまだ今以上に心を開いてくれていなかった頃のワンシーンを。



      30   2018/04/01(日) 22:30:58.10


      『あんたいっつも来るわね…どんだけひまなの?』

      『あはは、にこっち見て見てこのスクールアイドル。変な名前やなあ』

      『そのくそだっさい呼び方もやめなさいよ…どれ?』

      『「もちピーポー」やって。可愛らしいけど教育テレビのキャラクターみたいやな』

      『変なんかじゃないわよ。「ピーポー」はピープルのことで、「もち」は気持ちのこと。誰一人の気持ちも蔑ろにしない、全ての想いを受け止めるって願いを込めた名前なんだから。語呂を良くしただけでしょ』

      『ほえ…じゃ、じゃあこれは? 「あわじきんちゃく」』

      『淡路島出身なのは良いとして、「きんちゃく」はイメージ通りよ。大切なものを逃さない、包み込むような存在になれるようにって』

      『なんでグループ名の由来なんか知ってるん? そういうものなん?』

      『そういうものかどうかは知らないけど』

      『どんな名前にだって必ず願いが込められてるはずなんだから、その人たちの気持ちを知るには名前を知るのが一番でしょ』



      32   2018/04/01(日) 22:33:02.00


      変わってない。

      寂しくて悔しくて、歪んでしまって曲がってしまっても。

      この人の本質は、絶対的に揺るがない。

      だからこそーーあなたのことが大好きだし、あなたには幸せな笑顔でいてほしいと思う。

      「にこっち」

      「んー?」

      「アイドル、諦めんといてな。ウチはずっと応援してるから」

      一瞬だけきょとんとした後、

      「当ったり前でしょ。にこが立ち止まるのは、この世の全てが笑顔に包まれたときよ」

      どんと胸を叩いて笑った。

      ***

      「…ヒトゴトみたいに言うなっての。むかつく」

      ***



      33   2018/04/01(日) 22:35:55.45


      ***

      一人、生徒会室までの道を行く。

      「やっぱりにこっちは最高に格好ええなあ」

      『そろそろ入部する気になった?』

      『久し振りに聞いたら気まぐれな返事があるかなって思ったのよ』

      『…ヒトゴトみたいに言うなっての』

      「…ウチには無理だよ」

      適材適所。

      にこっちの隣に堂々と立つ役目は、きっと誰かが担ってくれる。

      それこそ、穂乃果ちゃんのような子が。

      決してーー決して、

      「それはウチじゃないはずや」

      ………………

      …………

      ……



      34   2018/04/01(日) 22:38:12.64


      中学のある年、最初の練習から本番まで、丸々参加できた体育大会があった。

      ちょうど親の仕事が落ち着いており、次の転勤予定は早くとも来春と聞かされたときには、途中参加も途中退場もしなくてよい学校行事があることにひどく浮かれた。

      体育の授業はほとんどが体育大会の練習にあてられ、組分けや応援練習のために他の科目の授業すら振り替えられる。

      それまでは全く身が入ることのなかったそれらの時間が、嬉しくて楽しくて仕方がなかった。

      ついには張り切って、応援団に志願したほどに。

      はじめは少なかった練習も本番が近付くにつれ徐々に増えていき、直近一ヶ月にもなる頃には始業前、昼休み、放課後とトリプルパンチで応援練習に従事する日々が続いた。

      それでも苦はない。

      大きなことに参加して、自分の手で作り上げることができ、その完成を見届けることだって叶う。

      中学校の体育大会というそれだけのことが、なににも替えがたいほど貴重な経験だった。

      ***



      35   2018/04/01(日) 22:40:28.82


      ***

      応援団には色々な役割があった。

      応援団長をはじめとし、声出し隊長、指導隊長、振付隊長と実に様々。

      その中で、らしくもなく団旗係に名乗りを上げた。

      応援団長の隣で大きな団旗を振り回す、非常に目立つ役。

      らしくないと言えば応援団に所属した時点ですでに相当らしくはなかったけれど、そこに輪を掛けそれまでなら頼まれたってやらなかったであろうそんな役に自ら立候補したことからも、どれだけの想いで臨んでいたかを窺える。

      たいした競争もなく団旗係に決定し、初めて学校行事に両親を呼んだ。

      みんなと作り上げた応援を、そして初めてかもしれないほどの自身の晴れ舞台を、見てほしくて。

      「必ず行くよ。希の姿を誰よりも近くで見るからね」

      寡黙な父親の逞しい言葉に、気持ちはより一層引き締まった。

      ***



      36   2018/04/01(日) 22:43:40.95


      ***

      体育大会、本番。

      心地よい秋晴れと吹き抜ける涼風に、絶好の体育大会日和だったことを覚えている。

      校庭は朝から活気に溢れ、熱い接戦が繰り広げられていた。

      「走れーっ! 走れーっ!」

      「青組、今何点!?」

      「召集始まってるよ、急いで!」

      慌ただしく過ぎていく一日。

      応援団をやってはいても、競技への参加はまた別。

      走り、踊り、跳び、転び。

      クラスメイトと笑い合いながら体育大会は進む。

      近くを通り掛かるたびに両親はいっぱい手を振ってくれて、気恥ずかしさなど少しも感じないほどに。

      ***



      37   2018/04/01(日) 22:46:47.48


      ***

      大会も中盤に差し掛かり、両親と昼食を食べていると、クラスメイトが訪ねてきた。

      「東條、応援団そろそろテント前に集合だってよ」

      「もうそんな時間? やばいやばい」

      「がんばってね希ちゃん!」

      「うん、ありがとう!」

      おにぎりをお茶で流し込んで立ち上がる。

      クラスメイトと両親の激励を背中に受けて、気合いは充分。

      テント前にはもう団員のほとんどが集まっていた。

      「来たか、団旗係」

      「ちょっと遅れました」

      「いいよ、いいよ。それより頑張ろうな! この応援で一気に一位になろう」

      「はい!」



      38   2018/04/01(日) 22:49:52.57


      応援は午後一発目のプログラム。

      しかもかなりの点数が割り振られることになっており、どの組も円陣や掛け声で激しく盛り上がっている。

      最終確認を済ませ、いざ。

      衣装の長ランを身にまとい、ハチマキをぎゅっと締めれば、怖いものなどなにもなくなる。

      真っ赤な団旗を見上げる。

      はたはたと揺れるその姿は威風堂々、際限なく士気を高めてくれた。

      「さあ、行こうか!」

      踏み出した団長に、団員が続く。

      お偉いさんのテントを背に、一列に並び立つ。

      静まり返る校庭。

      全校生徒と先生方、みんなの家族。

      生唾が音を鳴らすほどの緊張に、否応でも胸は躍りーー

      —-パチン

      そんな音が聞こえた気がした。



      39   2018/04/01(日) 22:53:04.54


      「そお〜れっ!!」

      けたたましい音楽。

      唸りにも似た応援の声。

      団長を囲うようにダンスが展開され、いよいよ団旗を翻す。

      ーーグッ。

      「!?」

      団旗が持ち上がらない。

      もちろん軽く振り回せるものではないにせよ、これまで毎日毎日振ってきた。

      持ち上げることすらできないなんて、そんなわけがない。

      応援は進む。

      すでにいくらか出遅れている。

      汗で滑る手に力を込めて、渾身の力で団旗を振り抜いた。

      それと同時に、後方のテントが一斉に崩れ落ちた。



      40   2018/04/01(日) 22:56:09.34


      「……!? !?」

      声にもならないどよめきが校庭に満ちる。

      団旗の先がテントの端に引っ掛かっていたという。

      それを無理やり引き抜いたものだから、支えを失いテントは崩れ、お偉いさんたちは一人残らず下敷きになった。

      応援は続いたものの、団長すら含めて、そんなものに集中している人は誰一人いなかった。

      幸い、派手に幌を被っただけで怪我をした人はいなかったようで。

      のそのそと這い出てきたうちの一人が、傍に転がっていたマイクを手に取った。

      「えー…ずいぶん大掛かりな応援でしたね。ありがとう」

      校庭は笑いで包まれ、おおごとにはならずに済んだ。

      おろすことも忘れ高々と掲げられたままの団旗が、強く強く風になびいてはためいていた。

      ……

      …………

      ………………



      41   2018/04/01(日) 22:59:16.58


      他の年の体育大会などろくに記憶にないけれど、あの年だけはずっとずっと心の片隅に巣食っている。

      急な事情で転勤が早まり、体育大会の数週間後にはまた引っ越すこととなった。

      まるで、失敗に蓋をして逃げ出すかのようにーー

      「思い返せば、ウチ失敗してばっかりやんなあ」

      恥ずかしい恥ずかしい。

      高校に入ってからは、かなり注意深くなったこともあって大きな失敗はなくなった。

      あんな姿、えりちにもにこっちにも見られたくないもの。

      「たま〜に思い出してしまうんよねえ、昔のこと」

      胸がきゅうっとなるけれど、だからといってどうすることができるわけでもないのに。

      「さてさてさ〜て」

      ぐうっと背伸びを一つ。

      どうやってにこっちとあの子たちを引き合わせようかなあ。

      ***



      47   2018/04/02(月) 05:43:21.27


      ***

      16時半。

      室内には二人きり、書類をめくる音とペンを走らせる音。

      ぎ、と背もたれが鳴く。

      「ふう…」

      「あら、希。もうお疲れ?」

      「放課後からずっとやもん、そりゃ疲れるよ。平然としとるえりちがおかしいんやってば」

      「慣れたのよ。もう半年にもなるもの」

      「それやとウチも慣れてないとおかしいんやけどなあ」

      「貴方には貴方のペースがあるんだから、それでいいのよ」

      「今日はあの子らも来んしな」

      「…静かで仕事がはかどるわ」

      うそつき、と心の中で。

      気になってるくせに。



      48   2018/04/02(月) 05:43:56.40


      「窓、開けてもええ?」

      「どうぞ」

      木々は揺れてない。

      遠慮せずにガラリと開けると、湿っぽい空気が流れ込む。

      心地よいとは言いがたいけれど、それ以上に窓を開けたかった理由がある。

      ワン ツー スリー フォッ ファイ シックス セブン エイッ

      花陽、少し遅れていますよ!

      凛は走り過ぎです!

      もう一回!

      「なんや、元気そうやね」

      ちらりと見遣る。

      青い瞳は書類に落とされたままだ。



      49   2018/04/02(月) 05:44:39.88


      「6人になったんやってな」

      「らしいわね」

      「6人ってことは、部の申請ができるやんな」

      カリカリ…と続いていたペン先の声が止む。

      「余計なこと考えてるんじゃないでしょうね」

      「ウチが部の申請をそそのかすって? そんなことせんでも、じきに来るやろ」

      こめかみをぐりぐりといじめてから、えりちは生徒手帳を取り出す。

      「部の申請に関する記述はどこだったかしら」

      「18ページやなかった?」

      「どうして即答できるのかしら」



      50   2018/04/02(月) 05:45:42.22


      黙読の後、心底残念そうに嘆息。

      「どうしたん?」

      「申請を断る正当な理由はなさそう」

      「えりちはいじわるやなあ」

      正当な理由がないなら認めればいいだけなのに。

      難しいカオをして、再び生徒手帳を熟読し始める。

      けれど、その表情からは光明を見出だせなかったことが見て取れる。

      まあ、知ってるけど。

      だからこそ、

      「あー、でもやっぱりだめなんちゃう?」

      「えっ、どうして?」

      「だってもうあるやん、スクールアイドル部。すでにある部の申請はさすがにあかんよなあ」

      「!」

      この糸を掴まずにはいられまい。

      ***



      51   2018/04/02(月) 05:46:46.18


      ***

      夕焼けに並んで歩く。

      「今日は結局来てくれんかったな、穂乃果ちゃんたち」

      「来たって一緒よ」

      心なしか声が明るい。

      「だって、申請を認めるわけにはいかないんだもの」

      「…そうやね」

      「残念ね。あの子たちはあの子たちで一生懸命なんでしょうけど、校則が許さないんだから仕方がないわ。部でもない有志の団体に学校の名前を背負わせるわけにはいかないし」

      うんうんと頷きながら独りごつ。

      珍しく饒舌なほうだけど、その言葉はどうしても自身に言い聞かせているようにしか聞こえない。

      幸せそうに口角を上げて。

      苦しそうに眉根を寄せて。

      そんなカオ、してほしくないよ。



      52   2018/04/02(月) 05:47:49.36


      「じゃあね、えりち。また明日ーー」

      「あ、希。なにか甘いものでも食べにいかない?」

      「え? 今から? 寄り道はあかんのやなかったん?」

      帰り道の分岐点で、手を振る姿を呼び止められる。

      あまりに予想外の誘いに、思わずそんな風に返してしまってから、しまったーーだけど、もう遅くて。

      「そ、そうよ。学校の帰りはだめ。土曜日に行きましょう」

      「あ、えっと、えりち。ウチは今からでもええよ」

      「…だめよ。校則でしょ」

      「……うん…」

      瞳は夕焼けに紅く染まり、宿す色を読み取ることができない。

      また明日ね。

      紅を反射しつつ翻る金髪に見蕩れるだけで、それ以上の言葉は紡げなかった。

      ***



      53   2018/04/02(月) 05:50:27.17


      ***

      「失礼します!」

      「失礼します」

      いつにない勢いで、扉が開け放たれた。

      現れたのはもちろん穂乃果ちゃんと、半歩後ろに寄り添うは海未ちゃん。

      やっと来た。

      「今日はなんの用?」

      「部活動申請をしにきました!」

      分かってたはずだろうに、その言葉を待ってから背筋を伸ばすえりち。

      視線で続きを促す。

      「私たち、人数が6人になったんです! だから部活動申請をしたくって!」

      「校則では、『一の目的に賛同する生徒が五人以上となった場合、この目的を達するため代表の者は部の発足を申請することができる』とあります。その他の条項も満たすことを確認してきました」

      「…そのようね。部活動の申請要件に不備はないようです」

      「それじゃあ、」

      「申請は認めません」



      54   2018/04/02(月) 05:52:01.95


      「ええ!? なんでですか!?」

      「申請要件は満たしていると、たった今会長ご自身もーー」

      「申請の要件は満たしています。けれど、承認の要件は満たされていない」

      「承認の要件…ですか?」

      「すでにあるのよ、この学校には。スクールアイドル部が。残念だけれど、活動目的を同じにする部を複数存在させるわけにはいきません」

      「そんなあ…」

      「諦めてちょうだい。これは校則で決まっているの」

      「う、海未ちゃん…」

      「すみません、穂乃果。まさかスクールアイドル部がすでに存在するなどとは知らず…確認不足でした」

      「話は終わり? なら下がってもらえるかしら。公務に取り掛かりたいの」

      「…出直しましょう。ことりたちに話をしなければいけません」

      「分かった…」

      「失礼しましたーー」

      「ちょい待ち」



      55   2018/04/02(月) 05:53:06.02


      「え?」

      「希!?」

      「なにか…?」

      「貴方、今度はなにを吹き込むつもり? この子たちを応援したい気持ちは分かるけれど、校則で決まってるの! 認められないの! 貴方だって昨日そう同意したでしょう!?」

      「えりち」

      立ち上がらんとする肩をそっと押さえる。

      入口できょとんと立ち呆ける二人。

      「確かに、もうある部の申請を承認することはできん。同じような部が二つも三つもできたってしゃあないからな」

      「そう、その通りよ。だからこれ以上この件で話すことは」

      「せやけど、すでにあるスクールアイドル部に入部することはできるな」

      「入部…」

      「希!」



      56   2018/04/02(月) 05:55:08.81


      「入部するということは、必ずしも私たちの思うように活動できるとは限らないということですね…」

      「もちろん、どうするかは穂乃果ちゃんたちの自由や。後から入った身分で、主導権を握れるもんでもないやろうね」

      「それでは意味が…」

      「でも、現状それ以外にスクールアイドルの活動をする手だてはないんと違う?」

      「待ちなさい。スクールアイドル部は活動休止中でしょう? いくら人数を集めて入部したからといって、そんな部の活動はどっちにしたって「活動休止中なんかやあらへんよ」

      「の、希…?」

      「スクールアイドル部は活動休止中なんかやあらへん。目立った功績はないかもしらんけど、部員は一人かもしらんけど、今だって活動してるよ。……ま、やからこそ、部長さんと話をつけんことにはどうにもならんけどね」

      しんと静まる室内。

      えりちも口を噤み、あちゃあやっちゃったかな…と思い始めるとどちらが早いか。

      「行こう、海未ちゃん」



      57   2018/04/02(月) 05:57:12.08


      穂乃果ちゃんは迷いのない声で言った。

      「スクールアイドル部の部長さんに会いにいこう」

      「しかし、」

      「話してみなきゃ始まらないよ。どうなるにしたって」

      「そう…ですね。穂乃果の言う通りです」

      「それに、一人になったって活動し続けるなんてすごいよ。きっとスクールアイドルのことが大好きなんだね。そんな人が入ってくれたら、ミューズはきっともっと良いグループになるよ!」

      「ふふ、穂乃果ったら。会ってもいないのに勧誘するつもりでいるのですか?」

      「希先輩、ありがとうございます! 私たち、スクールアイドル部の部長さんと話をしてきます! それじゃ!」

      「あっこら穂乃果! し、失礼しましたっ」

      相変わらず去り際は慌ただしく、室内には再び静寂が訪れる。



      58   2018/04/02(月) 05:59:14.38


      「にこっちと上手くやり合えるかなあ」

      「にこ…? 思い出したわ。スクールアイドル部の矢澤にこさん。貴方のお気に入りね」

      「そうそう、可愛いんよにこっち。にこにこでぷりてぃなん。もうほんまにアイドルって感じでな」

      「その人とあの子たちを一緒の部に押し込めようってことね。希…貴方って人は」

      「悪いことしてないやん。好きなもんが同じ者同士、手を取り合えたら力はもっと強くなる。『好き』ってそういうもんやろ」

      「もういいわ。結局なにもかも貴方の思い通りに進んでいるもの。矢澤さんとあの子たちが和解する未来だって、貴方にはもうはっきりと見えているんでしょ」

      「ウチにはな〜んも。ただ、カードがウチにそう告げるだけ」

      「はいはい…希には敵わないわ」

      やれやれと首を振って、えりちは席を立つ。

      「あれ? もう帰るん?」

      「ええ。頭が痛むの」

      「そう…気ぃ付けてな」

      「希もね」



      59   2018/04/02(月) 06:01:22.18


      「…私、思うのよ」

      「なに?」

      「貴方はあの子たちを応援してる。あの子たちが気になって仕方がないんでしょう?」

      「うん。一生懸命に頑張る人は応援したなってまうよね」

      「だったら」

      「だったら、貴方も仲間に加わったらいいのに、って」

      「…余計なお世話だったかしらね。今日は一人で帰るわ」

      「…うん、また明日」

      「また明日ね」

      退室際、小さな小さな一言。

      「きっとあの子たちは、成功するんでしょうね」

      パタンと扉が閉められた。

      ***



      60   2018/04/02(月) 06:03:25.04


      ***

      私たちの想いが集まれば なんとかなるかも

      小さなちからだけど 育てたい夢がある

      わからないことだらけ ポケットに地図なんて持ってない

      少しずつでもいいんだね 胸張って進もうよ

      「飽きないわね」

      歌詞を合間を縫ってそんな茶々。

      「なんで分かったん?」

      「貴方がイヤホンしてるのなんて、ここ数ヶ月で初めてなんだもの」

      「にこっちにお願いしたら入れてくれたん」

      「なるほどね。希は機械の扱い苦手そうだものね」

      「うん。ウチ、パソコンとかからっきし」

      これを機に、とμ’sの曲を全てスマートフォンに入れてもらった。

      とは言え、全部でたったの三曲だけだけれど。

      プレイリストとやらに並ぶその曲たちは、どれも愛おしくなるほどに繰り返し聴いている。



      61   2018/04/02(月) 06:05:27.65


      「聴く?」

      「ううん、いい」

      片方を差し出したイヤホンは、しかし断られる。

      しょんぼりと耳と尾を垂らしたようにでも見えたのか、えりちがやや慌てた様子で取り繕う。

      「違うの、嫌いとかじゃないのよ。その…私も入れてるから。聴こうと思えば自分で聴けるの」

      言うや、ぷいっと向こうを向いてしまった。

      その事実が嬉しくて、そんな様子も可愛くて、つい頬が緩んでしまう。

      「曲は、いいわね。詞も曲も、決して最高級ではないけれど、なんだか一生懸命って感じがして、つい聴いちゃうわ」

      照れ臭いのか、ぽつりぽつりと捻り出すように。

      パフォーマンスは?と余計なことは訊かない程度の心遣いはある。

      肯定するのも否定するのも、今のえりちにはきっとつらいから。



      62   2018/04/02(月) 06:07:31.43


      「歌ってもいい?」

      「え? いいわよ」

      「♪うなずいてよ おおきく! 笑ってみて! えがおの hi hi hi だいじょうぶ 間違えることもあるけど one, two, three, four やっぱあっちです!」

      「♪Something いま何か あなたの元へと Something いま何か すてきな気持ちを そう伝えたいと思う だから待ってて 楽しみがもっともっと もっともっとこれから!」

      「希は気持ち良さそうに歌うのね」

      「えへへ…へたっぴなもん聞かせてごめんな」

      「ううん、そんなことないわ。すごく…いつまでだって聴いていたくなる歌声よ」

      いつの間にかえりちは手を止め、瞳を閉じていた。

      唇をぎゅうっと噛み締め、なにかに耐えるように。



      63   2018/04/02(月) 06:09:34.32


      一時間ほど外す
      果たして著作権的なものは大丈夫なのだろうか…



      66   2018/04/02(月) 07:22:30.34


      「なあ、えりち」

      「…無理よ」

      「そんなことない。何回だって手は伸ばされてたやん。あとはえりちがその手を取るだけ」

      「………」

      「えりち」

      「無理よ!!」

      頭を抱え、金髪が振り乱される。

      「今さらあの子たちにどんな顔を向けられるっていうの!? そんなの、どうしたって許されるわけが…」

      「許してくれるよ。あの子たちなら」

      「なんだってそんなことが言えるの。みんな真っ直ぐで良い子たちなのは知ってる。知ってるけど…」

      小さく丸まる背に、想いを込めてワンフレーズだけ。

      「♪だいじょうぶ 間違えることもあるけど one, two, three, four やっぱあっちです!」



      67   2018/04/02(月) 07:23:03.45


      だいじょうぶ。

      何回間違えたっていい。

      「『やっぱりあっち』が許されるんや。えりちには、これからまだまだ続いていく時間があるんやから」

      「なあ? みんな」

      はっと面が上げられる。

      一瞬だけ交錯する視線。

      その瞳はすぐに後方へ向けられーー

      「絵里先輩」

      「貴方たち…」

      「私たちに力を貸してください。絵里先輩が必要なんです」

      「………!」

      ーー8人目。

      その名を頂いた女神たちは9人。



      68   2018/04/02(月) 07:23:36.60


      「これで…後一人やね」

      「何言ってるのよ」

      「え?」

      「貴方が9人目よ」

      「…」

      「希先輩」

      「μ’sに入って下さい!」

      「……」

      「ごめんな」

      「え…?」

      「ウチは、何かを真面目にやる気はないんよ」

      「ど、どうして!?」

      「ウチの人生はね、程々でいいんだ」

      「その方がみんなも、そして私も…楽しく生きていけるから…」



      69   2018/04/02(月) 07:24:44.91


      「そんなの…認めないわ!」

      がしりと腕を掴まれる。

      「この子たちをその気にさせて、私をその気にさせて、それなのに貴方がここにいないなんて…認められるわけないでしょう!? 私のーー私の隣に貴方が立たなくて、誰が立つっていうのよ!」

      「……」

      「希。あんた、ずっとにこのこと応援してくれてたわね。そのことにすごく感謝はしてる…でも、にこはそんなのいらなかった。ただ隣にいてほしかったわ。あんたを誘った言葉にも気持ちにも、一回だって嘘はなかったのよ」

      「…………」

      「希先輩。私たちがこうやってグループとして一つになれたのは、あなたがいてくださったからです。希先輩なのでしょう、私たちに『μ’s』の名を下さったのは。それならば、あなたがいないこのグループを、誰がμ’sと呼べるのですか!」

      「……………」

      「希先輩! 私、難しいことはよく分かりません。でもこれだけは言えます…私は、希先輩と一緒じゃなきゃ嫌なんです! 私が嫌なんです!!」

      「……っ!」

      「…放して」

      「希…」



      70   2018/04/02(月) 07:25:46.49


      「えりち。にこっち。海未ちゃん。穂乃果ちゃん。ありがとう」

      「お礼なんかいりません。だから、」

      「ウチは…ウチは、みんなの邪魔をしたくない」

      ぽろぽろと。

      そんなつもりはないのに、涙が零れ落ちる。

      「邪魔になんかならないわ。みんな貴方が必要なのよ」

      「あかん…あかん……ウチじゃだめなん…」

      「希先輩…どうして」

      伸ばされた手を掴みたい。

      穂乃果ちゃんを始めとするみんなが一つになって、そこにえりちも加わることができて。

      そこにーーいたくないわけがない。

      だけど!



      71   2018/04/02(月) 07:26:55.27


      —-パチン

      卒業製作の壮大なステンドグラスを、指一本で全損させた。

      —-パチン

      文化祭のお化け屋敷に大量のビー玉をぶち撒けて、からくり屋敷に変貌させた。

      —-パチン

      修学旅行のバスに一人だけ乗り損ねて、旅程を大きく狂わせた。

      —-パチン

      家庭科の調理実習で、とっても塩っぽいケーキを作り上げた。

      —-パチン

      大掃除でワックスのバケツを引っくり返して、二時間の成果を台無しにした。



      72   2018/04/02(月) 07:28:04.01


      幾度となく失敗し、ことごとく人の頑張りを無に帰してきた。

      なにかを為そうとするときに必ず頭の中に鳴り響く悪魔の舌打ちが、度重なる転校以上に人との繋がりを怖いものだと思わせる要因となった。

      分かっている。

      本当は、高校に入ってから大きな失敗がなくなったのは、決して注意深くなったからなんかじゃない。

      人との繋がりを減らし、『想い』や『願い』を遠ざけ、どんな失敗が起こるか分からないなにもかもをはね除けてきたから。

      ただそれだけのことだ。

      今、目の前で大きな大きな『奇跡』のカケラたちが一つになろうとしている。

      そこに加われば、きっと。

      間違いなく。

      その最も大切なときに再び悪魔が舌打ちをするだろう。

      そんな恐怖にはーー耐えられない。



      73   2018/04/02(月) 07:29:32.50


      「9人目は、責任を持ってウチが見付ける。目星はついてるんよ。一年生の美奈ちゃんとか、二年生の優香ちゃんとか、四組の柚村さんとか、みんなと並んで立つのに遜色ない子なん。あとはきっかけさえあればみんなと繋がることができて、」

      「そんなこと誰が望んだのよ!」

      「ここにいる8人の心は一つ、あんたに仲間になってほしいって、それだけのことなのよ。分かんないわけじゃないでしょ」

      「…えりちの言ったことそのまんまなん」

      「え?」

      数日前の、生徒会室でのワンシーンを思い出す。

      部の申請をしにきた穂乃果ちゃんたちに対して、えりちは頷きながらも断った。

      「申請の要件は満たしてるかもしらん。でも、承認の要件が満たされてない…そんな感じやね」

      えへへ、と笑ってみせる。

      「ウチのこのギャグまんがみたいな体質が、永遠にそれを許してくれないんよ」



      74   2018/04/02(月) 07:30:39.25


      やっと顔を上げられた。

      言いたいことを言ってどこかすっきりしてしまったのは、一人だけずるいと言われるだろうか。

      それでもいい。

      たとえ同じ場所に立つことができなくても、影からみんなをサポートすることさえできれば。

      えりちを始めとする誰も、なにも言わない。

      呆気に取られたように、呆れたように。

      湛えられた憐憫と遺憾は、必ず払拭してみせるから。

      「ほな、ウチは行くね。次の曲も楽しみにしとるよ」

      「待ってください。どこへ行こうというのですか」

      海未ちゃんの声。

      「え? どこって別に、お昼ごはんでも食べに…」

      その言葉は深い溜め息にも聞こえて。

      「それしきの理由で私たちからーー穂乃果から逃げられると思わないでください」



      75   2018/04/02(月) 07:32:41.85


      「は、はあ? それしきの理由って」

      「穂乃果!」

      「あいよっ!」

      パァン、と海未ちゃんの手が打たれる。

      「ワン ツー スリー フォッ」

      「な、なにしてるん?」

      「ダンスの練習です。穂乃果、半拍子ほど遅れていますよ! ファイ シックス セブン エイッ」

      9人っきりの教室内。

      決して広いとも言えない空間で、どこかはらはらさせる動きながらも、手拍子についていく穂乃果ちゃん。

      すごいけど、これが一体なにーーと改めて抗議しようとした瞬間、



      76   2018/04/02(月) 07:34:44.23


      「わあああっ!」

      ステーン、と穂乃果ちゃんがすっ転んだ。

      「きゃあっ!」

      「ちょっとこっち来ないであああもうっ!」

      「あっ真姫ちゃんことりちゃん…」

      「かよちん危ないよ! んにゃあっ!!」

      「んぎゃなんでに"ごも"ぉぉっ!」

      転んだ弾みで穂乃果ちゃんの上履きが吹き飛び、避けようとしたことりちゃんが真姫ちゃんを巻き込んでドミノ倒しに。

      駆け寄ろうとした花陽ちゃんの裾を掴もうとした凛ちゃんが、なぜかにこっちの手を引いて一緒にこけて。

      海未ちゃんと花陽ちゃん、それにぽかんと見詰めるだけのえりちを残して死屍累々。



      77   2018/04/02(月) 07:36:47.75


      「いたたた…なんなのよ、もうっ!」

      「り、凛ちゃん大丈夫?」

      「大丈夫だにゃ! かよちんが転ばなくてよかった〜」

      「にこをクッションにしたらそりゃ大丈夫でしょうよ! 早くどきなさいよ!」

      「にこちゃんクッションになんかなってないにゃ」

      「どこ見て言ってんのよ!!」

      「あたた…ことりちゃん大丈夫? ごめんね」

      「う、うん大丈夫だよ…穂乃果ちゃんこそ足を挫いたりしてない?」

      「えっと…うん、なんともないよ!」

      「どうして転んだからって靴が脱げるのよ、意味ワカンナイ」

      「かかとを踏んでいたようですね。穂乃果…」

      「だ、だって海未ちゃんがいきなり手拍子し始めるから!」

      「ちゃんと合図をしてあなたも応えたでしょう!」

      「誰も怪我しなくてよかったあ…」

      「本当です。誰がここまで派手に失敗しろと…まあ、これで全員無傷というのも、ならではでしょう」



      78   2018/04/02(月) 07:38:55.01


      「な、ならではって…」

      困惑を隠せない。

      転び、焦り、怒り、しかしなぜか満足そうで。

      ところが、海未ちゃんはしれっと言ってのけた。

      「もちろん、ギャグまんがならではです」

      「ギャ、ギャグまんが…?」

      「ええ。このシーンで転ぶのも、それが曲がりなりにもアイドルでありながらこうも派手であったのも、ここまで大勢を巻き込んでおきながら誰一人として怪我をしていないのも、ね」

      「まったくもう…転ぶなら転ぶって言いなさいよね」

      「む、無理言わないでよう真姫ちゃん…」

      「そもそも教室の中でいきなり踊り出すんじゃないわよ、このノーキン」

      「それは海未ちゃんがやらせたんだもん!」

      「いかがですか、希先輩」

      「海未ちゃん! 少しは穂乃果を気遣ってよ! 穂乃果使いが荒いんだから…」



      79   2018/04/02(月) 07:41:03.16


      やがて、転がっていた全員がのそのそと起き上がる。

      すっかり埃まみれになって、お尻をはたきながら照れ臭そうに。

      「凛」

      「びしっとポーズ決めた直後に大雨に降られたにゃ!」

      「花陽」

      「腹筋中に練習着のお尻が破れちゃいました…」

      「真姫」

      「デモテープを再生するつもりが間違って録音した鼻唄を再生したわ」

      「ことり」

      「衣装を作ってるときに制服の袖まで縫い付けちゃったよ」

      「にこ先輩は打合せ中に大きなくしゃみをしてホワイトボードを鼻水で台無しにしたことがあります」

      「なんでにこのだけあんたが言うのよ!」

      「穂乃果は見ていただいた通りいつでも転びますし」

      「そんなにいっつも転んでないよ!」

      「私は、その…考え事をしていた様子を…花陽に…」

      「決めポーズ取ってるのを見られたんだよね」

      「言わないでください!!」



      80   2018/04/02(月) 07:43:07.17


      にっ、と。

      してやったりと7人が笑う。

      そんなーーそんなのーー

      「…ウチがおることで、いつか取り返しのつかん事態を招いたら、って…それだけは絶対に嫌で、ずっと…」

      「私たちはみんな、これでもかと言うほどのギャグまんが体質なのです。そこに今さら希先輩が『いくらか似たようなもの』を持ち込もうと、たいしたことはありません」

      「………!」

      ずっとずっと、この体質を忌々しく思ってきた。

      望みを奪い手足を縛る、外すことのできない枷だと。

      だからきっと、もうなにもすることは叶わないのだと。

      でも、そんなことはない…

      この枷を外すことができないままでも、受け入れてくれる人たちがいる。

      だったら、もうーーーー

      「ウチも、みんなの隣に…立ちたい」



      81   2018/04/02(月) 07:45:09.24


      止めたと思ったのに。

      ぽろぽろ、ぽろぽろ。

      再び瞳からは涙が溢れ出す。

      けれど、この涙はちっとも悲しくなんかなくて。

      暖かく、暖かく、頬を濡らしていった。

      「よろしくね、みんな」

      「よろしくな、みんな」

      「「「よろしくお願いします! 絵里先輩、希先輩」」」

      ***



      82   2018/04/02(月) 07:47:10.89


      ***

      その日から、悪魔は鳴りを潜めている。

      幾度ものライブの日も、9人で大喧嘩をしたときも、大切な未来のことを話し合った場でも。

      舌打ちは一度も聞こえなかった。

      いや、本当はいつだってそこにいて、何度だって鳴らされていたのかもしれないけれど。

      「さあ、行くわよ!」

      「気合い入れて行っくにゃー!」

      「あ〜待ってえなみんな〜! ウチまだ準備が…っとと、うわあああっ!」

      「きゃあっ!」

      「またですか希!」

      「あたた…ごめんごめん…ってあれ、海未ちゃん。シャツ前後ろやない?」

      「!?」

      「あはははっ、海未ちゃん間抜け〜」

      「笑いましたね穂乃果!」

      「えへへっ、海未ちゃんおかしい」

      「ふふ…もう、着替えてすぐに行きますよ」

      「海未ちゃん待ちなんだよ〜」

      「言いっこなしです!」

      —-パチン パチン パチン…

      そんな些細な音はーー

      私の大切な仲間たちが、いつだって掻き消してくれるのだ。

      終わり



      83   2018/04/02(月) 07:50:16.01


      連投規制のために投下を最優先にしました
      よっしゃあ今からみんなと会話するぞ!!



      91 名無しで叶える物語 2018/04/02(月) 08:22:53.97


      乙乙
      良い改変だった



      92 名無しで叶える物語 2018/04/02(月) 08:32:54.46


      もうちょいギャグテイストにできそう



      93 名無しで叶える物語 2018/04/02(月) 08:42:55.87


      乙であった



      95   2018/04/02(月) 12:06:01.81


      >>92

      他のメンバーをもっと出してあげられたら、より明るい雰囲気にできたと思うんだ…
      次回の課題だと思って頑張るよ!



      97   2018/04/02(月) 12:09:09.38


      >>94

      あの部分だけは変えずに使いたくて!笑
      なるほど、P子でしたか それを念頭に置くとまたかなり違うテイストの話になったでしょうね
      今ss投下中ですか? どれでしょう 読みたいな

      しかし、その言葉を頂けたことがなによりです
      書いてよかったです
      素敵なタイトルと設定をありがとうございました!



      101 名無しで叶える物語 2018/04/02(月) 13:22:54.40


      のぞえり加入の経緯を丁寧に書いてくれたのが何よりも良かった。乙



      103   2018/04/02(月) 15:34:32.57


      >>100

      読みます! 楽しみ!



      104   2018/04/02(月) 15:34:32.57

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        引用元:http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1522585596/

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