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ホーム > 未分類 > 【ラブライブ!】海未「五月雨と月影」

【ラブライブ!】海未「五月雨と月影」

2017年07月15日 0:40:27 , JST | 未分類
  2017/06/18(日) 23:27:02.72


 

五月雨の 空だにすめる月影に

涙の雨ははるるまもなし

 

――赤染衛門(新古今和歌集)

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  2017/06/18(日) 23:27:02.72

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      2017/06/18(日) 23:28:16.99


    ザアアァーッ…

     

    ――体に打ち付ける冷たい雨。

    刀を抜いた、五、六人のやくざ者が、

    海未を取り囲み、じりじりと迫る。

     

    その刹那、

     

    ザスッ!

    「ぐあっ!?」

     

    一瞬で手を斬りつけられたやくざ者が、刀をその場に取り落とす。

     

    シュバッ!

    ザンッ!

    「ぎゃあっ!?」

    「ああっ!!」

     

    腕を、脚を、目に映る間もなく、次々に海未の刀が斬り裂き。

    瞬く間に、取り囲むやくざ者を、海未は斬り伏せる。

     

    海未「―――・・・」

     

    ザアアァーッ…

     

     

    「流石だね――海未ちゃん」

     

     

    雨はまだ、止まない。



      2017/06/18(日) 23:29:16.31


    ――遡ること一日前。

    とある、小さな宿場町――

     

    ザーッ…

     

    ザッ…ザッ…

     

    降り続く五月雨の中、

    傘を差して歩く、ひとりの浪人。

     

    海未(雨・・・・・・止みませんね)

    海未(宿場町――ですか)

    海未(丁度いい。そこの飯屋で、ひと休みしましょう)



      2017/06/18(日) 23:30:18.86


    ガララッ

    ミカ「いらっしゃーい」

     

    飯屋の中は人もまばらで、娘がひとり、切り盛りをしている。

     

    ミカ「お侍様、何にします?」

    海未「お茶と・・・・・・とろろ飯をひとつ」

    ミカ「はーい、ただ今ー」

     

    ヒソヒソ…

    一息ついた所、隅の席の二人組の会話が、聞こえてくる。

     

    「山向こうの町で・・・・・・賄賂を働いていた侍連中が・・・・・・殺られたらしい」

    「ひとり残らず斬られたとか・・・・・・この辺りにも、やって来たのか・・・・・・?」

    「噂に聞く、人斬り・・・・・・“隻腕の甚内”・・・・・・」

    ヒソヒソ

     

    海未「・・・・・・・・・」



      2017/06/18(日) 23:31:29.01


    ミカ「おまちどうさまー」

    海未「ありがとうございます。おお、これは美味しそうですね」

    ミカ「お侍様、旅のお方?」

    海未「はい。諸国を渡り歩く、根無し草ですよ」

    海未「この町には、雨宿りで立ち寄ったのです」

    ミカ「ああ、この長雨、ずっと続いていますものね」

    ミカ「私はてっきり、お侍様も芸妓(げいこ)さん目当てでやって来たのかと」

    海未「芸妓さん?」

    ミカ「寂れた小さな町ですけど、唯一、この町の芸妓さんはちょっと有名なんですよ」

    ミカ「中でも、町の芸妓さんを取り仕切る“花鳥太夫”の容姿と舞は絶世の美しさで・・・・・・」

    ミカ「はるばる、太夫目当てでこの町にやって来る人が、後を絶たないんですよ」ペラペラ

    海未(この娘、随分とお喋りですね・・・・・・)

    海未(ふむ。芸妓さん、ですか・・・・・・)



      2017/06/18(日) 23:32:39.64


    ミカ「ところで、お侍さんは、なぜ旅を?」

    海未(そろそろ、とろろ飯を食べたいのですが・・・・・・)

    海未「――そうですね」

    海未「人を――探しています」

    ミカ「人を・・・・・・?」

     

    ガララッ!

    やくざ「おい、娘!!」

     

    その時、荒々しく戸を開けて入ってきたのは、

    見るからに柄の悪い、三人のやくざ者。

     

    ミカ「い、いらっしゃい・・・・・・」

    やくざ「いらっしゃいじゃねえよ。今月の分、どうなってんだ」

    ミカ「今月は、もう少し待って頂けませんか・・・・・・? 何分、色々苦しくて・・・・・・」

    やくざ「ああ!? 舐めてんじゃねえぞコラ!!」

    グイッ!

    やくざ「だったらこの店で飯売るだけじゃなく、体でも売ったらどうだ、ああ!?」

    ミカ「うう・・・・・・」

     

    海未「待ちなさい」

    ザッ



      2017/06/18(日) 23:33:46.18


    不意に海未が立ち上がり、

    飯屋の娘の胸ぐらをつかむ、やくざ者共の前に立つ。

     

    やくざ「ああ? なんだお前ェは」

    やくざ「浪人風情が、邪魔立てするとためにならんぞ」

    海未「私は昼飯を食べに来たのです」

    海未「貴方がたに目の前で暴れられると、飯が不味くなる」

    やくざ「ああん!? すっこんでろこの、」

     

    ドグッ

    やくざ「!!?」

     

    海未に向かおうとしたやくざ者の鳩尾を、海未の刀の鞘が突く。

    さらに間髪入れず、

     

    ボゴッ

     

    さらにもう一人の男の腹にも鞘の先を食らわせ、

    思わず男たちが、その場に膝をつく。



      2017/06/18(日) 23:34:58.57


    やくざ「てめえ、」

     

    残ったひとりが刀を抜こうとした瞬間、

     

    ヒュンッ!

     

    尋常でない剣速で抜刀された海未の刀の剣先が、

    腰の刀に手をかけた男の、胸元をかすめる。

    そして、男の胸元の着物だけが切り裂かれ、肌が覗いた。

     

    パチン…

    海未「――私は、とろろ飯が食べたいのです」

    海未「失せなさい」

     

    やくざ「ひっ・・・・・・ひええっ・・・・・・」

    やくざ「ひえええ!!」

    バタバタ



      2017/06/18(日) 23:36:13.44


    ――やくざ者共が、我先にと退散した後。

    飯屋に残り、悠々ととろろ飯を食す海未と、その傍らに立つ、飯屋の娘。

     

    ミカ「お侍様、ありがとうございます・・・・・・なんとお礼を言ったら良いか」

    海未「礼には及びません。私は昼飯が食べたかっただけですから」

    海未「うむ、なかなか美味ですね」

    ズルルッ

    海未「――ふう、ご馳走様です」

    海未「ときに、あの者たちは?」

    ミカ「この宿場町を縄張りにする、やくざの一家の下っ端です・・・・・・」

    ミカ「以前は、矢澤一家というのがこの町を取り仕切ってたんだけど、しばらく前に潰されちゃって」

    ミカ「矢澤を潰して、新たに町を仕切ってるのが綺羅一家っていうんだけど、こいつらがとんでもなくてね」

    ミカ「みかじめ料も馬鹿高いし、逆らえば容赦なく殺されるし、役人にも裏で金を回してやりたい放題」

    ミカ「この前も、向かいの酒屋の主人が、高いみかじめ料に文句を言っただけで斬られちゃったの」

    海未「・・・・・・ほう。なかなかの悪党ですね」

    ミカ「最近じゃ、無法者をたくさん取り入れて、“悪来主(あらいず)”なんて名乗ってちょっとした軍団気取り・・・・・・」



    10   2017/06/18(日) 23:37:37.13


    ミカ「・・・・・・でも、まだ大丈夫」

    ミカ「私たちには、太夫がいてくれるから・・・・・・」

    海未「・・・・・・太夫が?」

    海未「それは、一体――」

     

    ガララッ

     

    「――邪魔するよ」

     

    ザッ…ザッ…

     

    ミカ「――!!!」ビクッ

    ミカ「お・・・・・・親分・・・・・・!!」ガタガタ

     

    ツバサ「“悪来主”頭目――綺羅ツバサ」

    ツバサ「貴方が、うちの三下を軽くいなしたっていう、お侍さん?」

     

    海未「ほう――」

    海未「噂をすればなんとやら。貴方が、綺羅とかいう一家の親分ですか」

    ツバサ「親分、という呼び名は好きじゃないわ」

    ツバサ「頭目とか首領、という方が好みね」



    12   2017/06/18(日) 23:42:16.92


    英玲奈「」ギロッ

    あんじゅ「」ジロッ

     

    ミカ(綺羅親分が自ら・・・・・・!? おまけに、幹部の統堂英玲奈や優木あんじゅまで・・・・・・!?)

    ミカ(駄目だ・・・・・・この店も潰される・・・・・・おしまいだぁ・・・・・・!)ガタガタ

     

    あんじゅ「聞けば、随分と剣の腕が立つみたいじゃなぁい」

    英玲奈「――まさか貴様。この辺りのやくざ者や侍を次々に襲っているという、“隻腕の甚内”ではあるまいな」

    ツバサ「落ち着きなさい。見たとこ、このお侍さんはちゃんと腕は二本ついているわ」

    海未「・・・・・・・・・」

    ツバサ「でも、三人を相手にして軽くあしらう剣の腕は見事」

    ツバサ「どう? なんなら、用心棒として、うちの組で雇い入れてもいいわよ?」




      13   2017/06/18(日) 23:43:06.36


      海未「・・・・・・断ると言ったら?」

      ツバサ「・・・・・・とろろ飯が、貴方の最後の食事になるかもね」

      海未「・・・・・・・・・」グッ

      英玲奈「!」

      あんじゅ「」クスッ

      ザッ

       

      海未が腰の刀に手をかけ、

      英玲奈とあんじゅの二人が身構えた――その時。

       

      「――お待ちください」

       

      まるで、殺気立った飯屋の中に、

      華やいだ風が舞い込んだようであった。

      鈴を転がすかのような声につられ、海未が入口に目を向けると――

      そこに立っていたのは、着物の美しい麗人と、その脇で付き従う娘。

       

      ツバサ「太夫・・・・・・!」



      15   2017/06/18(日) 23:44:03.73


      ミカ「花鳥太夫・・・・・・! 貴方まで・・・・・・!」

       

      フミコ「太夫、こちらへ」

      太夫「大丈夫です。ありがとう」

       

      太夫と呼ばれた美人は、目が不自由なのか――

      その両目は閉じられたままで、脇の娘が、太夫の手をとっている。

      しかし、両目が閉じられたままでも、隠しきれぬ美しさと気品が、その場の人間を黙らせる。

       

      太夫「――綺羅親分」

      太夫「ここは、私の顔に免じて、刀をお納めくださいませ」

       

      ツバサ「・・・・・・・・・」

      ツバサ「――行くわよ、お前たち」

      英玲奈「・・・・・・・・・」

      あんじゅ「ふん」

      ザッザッ…



      16   2017/06/18(日) 23:45:00.35


      綺羅一家が立ち去り――

      太夫は、涼やかな微笑を浮かべ、海未の許へと歩み寄る。

       

      太夫「貴方が――」

      太夫「この飯屋の娘を助けてくださった、お侍様?」

       

      海未は――

      動くことが出来なかった。

      答えることが出来なかった。

      何故なら、太夫のその顔は、年月が経っているといえど、見間違う筈もなく――

       

      海未(貴方は・・・・・・)

      海未(ことり・・・・・・なのですか・・・・・・!?)



      17   2017/06/18(日) 23:47:16.55


      ――その夜。

      花鳥太夫や、芸妓たちが詰める置屋――

       

      海未「・・・・・・・・・」

      ソワソワ

       

      ヒデコ「どうぞ、御遠慮なくおくつろぎください」

       

      昼間、太夫についていたのとは別の芸妓が、

      海未の前に、茶を置く。

       

      海未「しかし・・・・・・良いのでしょうか」

      海未「一介の浪人風情が、お邪魔させて頂いて・・・・・・」

      ヒデコ「勿論、並のお客じゃここに上がらせりゃしません」

      ヒデコ「しかし、太夫のたっての願いですからね」

      海未「はあ・・・・・・」



      18   2017/06/18(日) 23:48:30.42


      フミコ「――太夫をお連れしました」

       

      ――その時。

      芸妓に手を引かれ、奥の間から、太夫が姿を現す。

       

      海未「・・・・・・・・・」

       

      海未はしばし、その美しさに見惚れた。

      髪を結い、小鳥と花の模様の、鮮やかな着物を身に纏い。

      静かな微笑をたたえた、太夫の姿は――成程、この太夫目当ての客が絶えることがないのも、頷けた。

       

      太夫「――花鳥太夫と申します」

      太夫「改めて――ありがとうございました」

       

      海未の前に座った太夫は、深々と頭を下げる。

       

      海未「あ、頭をお上げください。私は、そんな――」

      太夫「かつて、身寄りのない私を受け入れてくれたこの町の人たちは、私にとっては第二の家族も同然」

      太夫「その町の人を助けて頂いた、心ばかりのお礼として」

      太夫「今夜は、ここで風雨をお凌ぎくださいませ」

       

      そう言って――顔を上げ、にこりと微笑む。



      19   2017/06/18(日) 23:49:49.56


      太夫「お名前を――教えて頂けますか」

      海未「な、名前、ですか?」

      海未(気づいていないのですか、ことり? 目が見えないから?)

      海未「わ、私は、その――」

      海未「――園崎、海右衛門(かいえもん)と申しますっ!」

       

      なぜか海未は――正直に名乗ることが出来ず。

      咄嗟に、名を偽った。

       

      太夫「海右衛門――様?」

      ニコリ

      太夫「海右衛門様と、おふたりで話がしたいです」

      太夫「ヒデコとフミコは、下がってよいですよ」

      フミコ「え? ですが――」

      ヒデコ「太夫が、そう言うなら。ほら、行くよ、フミコ」

       

      スッ…

      パタン



      20   2017/06/18(日) 23:51:09.30


      ザアアァー…

       

      海未「・・・・・・・・・」

      太夫「・・・・・・・・・」

       

      しばし、ふたりきりとなった海未と太夫は、黙り込み。

      部屋の中には、外で降り続ける雨の音だけが聞こえている。

       

      海未(やはり――この顔、声。年月が経とうとも、見誤る筈がない)

      海未(間違いない――ことり。何故貴方が、この町に――?)

       

      やっと見つけた。やっと会えた。

      それなのに、海未は、その喜びをどう表せば良いか、考えあぐねていた。

      戸惑っていた。

      ことりに、“あれ”から何があったのか――知るのが、怖かった。

      海未が、“あれ”から変わってしまったのを――知られるのが、怖かった。



      21   2017/06/18(日) 23:52:10.28


      太夫「――海右衛門様は」

      海未「!」

      太夫「なぜ、旅をされておりますの?」

      海未「・・・・・・・・・」

       

      しばし、口をつぐんだのち――

      海未は、正直に、答える。

       

      海未「人を、探しております」

      太夫「人を?」

      海未「大切な――ふたりの、幼馴染です」

      太夫「幼馴染――」



      22   2017/06/18(日) 23:53:23.69


      海未「ひとりは――」

      海未「生きております」

      太夫「・・・・・・・・・」

      海未「そして、もうひとりは――」

       

       

      ――お父さん・・・・・・! お母さん・・・・・・! 雪穂・・・・・・!

      ――酷い・・・・・・こんなの・・・・・・酷すぎるよ・・・・・・!!

      ――あいつら・・・・・・許さない・・・・・・!

      ――絶対に・・・・・・仇(かたき)を、とってやる・・・・・・!!

       

       

      海未「――死にました」

       

      ザーッ…



      23   2017/06/18(日) 23:54:40.54


      海未「太夫は・・・・・・なぜ、この町に?」

      太夫「・・・・・・・・・」

      太夫「私は、かつて・・・・・・家族と、故郷を失いました」

      太夫「間もなく、病にかかり・・・・・・光まで、失ってしまった」

      海未「・・・・・・・・・」

      太夫「流れに流れて――気づけば、この町にたどり着きました」

      太夫「先程も申し上げましたが、この町の人たちは、身寄りのない私を迎え入れてくれた」

      太夫「大切な、家族――ですから私は、この町を守らねばならないのです」

      海未「・・・・・・・・・」 

      海未(ことり・・・・・・私の知らぬ間に、貴方は、大変な苦労を・・・・・・)



      24   2017/06/18(日) 23:56:08.57


      海未「貴方は――この町の人たちを守る、と申されましたが」

      太夫「・・・・・・・・・」

      太夫「今、この町を取り仕切る綺羅一家――その横暴ぶりは、私もよく知っております」

      太夫「ですが、綺羅の親分は、私にだけは手出しが出来ないのです」

      海未「それは、一体――」

      太夫「――惚れているからです。この私に」

      海未「ああ――」

      海未(合点がいった。惚れた女に強く言われれば、やくざの親分も無茶は出来ぬという訳か――)

       

      海未は、わからなくなった。

      ずっと会いたかったはずだ。実際、とても嬉しいはずなのだ。

      しかし、年月は、自分とことりを変えてしまった。

      ことりは、昔よりも随分、美しく、そして強くなったように見える。

      しかし、自分は――

      そう思うと、心に木枯らしが吹くような、一抹の寂しさが拭えないのだ。



      25   2017/06/18(日) 23:57:09.12


      太夫「――海右衛門様」

      太夫「せめてもの御礼に――」

      太夫「舞を、舞わせては頂けませんか」

      海未「―――」

      海未「――是非」

       

      す、と、太夫が立ち上がり。

      雨の音を音色代わりに、舞を舞う。

      目の見えぬ、太夫の舞は――

      この上なく美しく。

      そして――どこか、悲しげだった。



      26   2017/06/18(日) 23:58:36.35


      海未「――見事な舞でございました」

       

      舞い終え、跪いて深々と頭を下げる太夫に、海未は手を叩く。

       

      太夫「――ありがとうございました」

      海未「さて――もう夜もふけて参りましたし」

      海未「私は、客間で休ませて頂きます――」

      スッ

       

      立ち上がり――海未が、太夫に背を向けた時。

      すとん――と、海未の背中に、太夫が体を預ける。

       

      太夫「海右衛門様――」

      太夫「私は――・・・」

      海未「・・・・・・・・・!」

       

      海未は――す、と、体を離し。

       

      海未「梅雨の長雨は、体を冷やします」

      海未「ゆめゆめ、風邪などひかれぬよう――」

       

      カララッ…

      パタン

       

      太夫「・・・・・・・・・」



      27   2017/06/18(日) 23:59:48.88


      部屋を出た海未は――

      中庭越しに、空を見上げる。

      黒く曇った空からは、星などひとつも見えず、

      涙を流すように、雨粒がひっきりなしに落ちてくる。

       

      海未(あの日から――)

      海未(私の中では、ずっと雨が降り続いているような気がします)

       

      海未は、自らの手を見る。

      本当は、抱きしめたかった。

      抱きしめ、自分こそが海未だと、園田海未であると、叫びたかった。

      だが――

       

      海未(ことりを、抱きしめるには――)

      海未(私の手は――血で濡れすぎてしまった)

       

      ザァァーッ…



      28   2017/06/19(月) 00:01:05.97


      ――同じ日の、深夜。

      町外れを、賭場帰りと思しき、二人組のちんぴらが歩く。

       

      ザーッ…

       

      男1「へへへ・・・・・・たんまり儲けたぜ」

      男2「どうせなら酒屋をたたき起こして、しこたま飲むか」

      男1「いいじゃねえか。芸妓も呼んでよ」

      男2「俺たちゃ、天下の“悪来主”なんだからよぉ・・・・・・!」

      ヒャハハハ

       

       

      ザッ



      29   2017/06/19(月) 00:02:14.43


      男1「・・・・・・・・・!?」

       

      そんな男たちの前に――

      現れた、影。

       

      「お前たち――」

      「やくざ者か。悪党か」

       

      男1「ああん? なんだてめぇは!!」

      男2「だったらどうし、」

       

      ザシュッ!!

       

      男2「おごあっ!?」

      ガクッ

      ドサッ

       

      突然――影は、刀を振るい。

      男を、一刀のもとに、斬り捨てる。



      30   2017/06/19(月) 00:03:23.96


      男1「ひゃっ・・・・・・ひゃあああっ!?」

       

      残る男が、手に持った提灯を取り落とし、

      濡れた地面に落ちて灯が消える間際、一瞬、影の姿を照らす。

       

      男1「かっ・・・・・・片腕・・・・・・!?」

      男1「お、お前、まさか・・・・・・人斬りの・・・・・・!!」

      男1「“隻腕の甚内”・・・・・・!?」

       

      「―――」

       

      ヒュンッ

      ズバッ!!



      31   2017/06/19(月) 00:16:38.89


      ――翌日。

      置屋の芸妓から、人斬りがあったという話を聞き、

      海未は、急ぎ町外れへと向かった。

       

      ザーッ…

       

      ザワザワ…

      ヒソヒソ…

       

      野次馬がひそひそと囁き合う中。

      すでに死体は運ばれた後であったが、その場所の地面には、生々しく血の跡が残っている。

       

      「斬られたのは綺羅一家のちんぴらだとよ」

      「綺羅一家が、血眼(ちまなこ)で下手人を探してるって話だぜ」

      ヒソヒソ

       

      海未「・・・・・・・・・」

      海未(まさか・・・・・・“隻腕の甚内”が、ここに・・・・・・?)



      32   2017/06/19(月) 00:18:04.69


      ミカ「あ! 昨日の、お侍様!」

      海未「貴方は、飯屋の・・・・・・」

      ミカ「こんな所にいたんですか!? 大変、大変なんですよ!!」

      海未「一体、何が――」

      ミカ「綺羅一家が、下手人はお侍様なんじゃないかと言って――」

      ミカ「先刻、芸妓の置屋に乗り込んできたそうなんですよ!!」

      海未「なんですって――!?」

      ミカ「お侍様を出せと言って、暴れてるらしくて――」

      ミカ「早く、早く行ってあげてください!!」

      海未「・・・・・・!!」

      ダッ!!



      33   2017/06/19(月) 00:18:58.90


      海未は――

      傘を投げ捨て、雨に濡れることも厭わず、走る。

       

      海未(なんということですか・・・・・・私としたことが、迂闊でした)

      海未(私がもう少し、置屋にとどまっていれば――!)

      ギリッ

      海未(お願いです。間に合ってください――!)

       

      ダダダダッ



      34   2017/06/19(月) 00:20:27.30


      海未「――!!」

       

      たどり着いた置屋は――

      入口の戸は壊され。

      嵐が過ぎ去った後のように、静まり返っていた。

       

      海未「くっ・・・・・・!!」

      ダダッ

       

      置屋の中に駆け込む。

      中は、土足で踏みにじられたらしく泥だらけで、荒らされ放題であった。

       

      海未「誰かいないか!! 誰か――!!」

       

      ヒデコ「く・・・・・・お・・・・・・」

      フミコ「お・・・・・・お侍、様・・・・・・?」

       

      ――その時。

      太夫の座敷の前で、血まみれになって倒れているふたりの芸妓が、

      弱々しい声で、海未を呼ぶ。



      35   2017/06/19(月) 00:21:51.04


      海未「――しっかり!!」

      ミカ「うわぁ、うわ、血が・・・・・・!!」

       

      後から追いついた飯屋の娘が、血を見て思わずたじろぐ。

       

      ヒデコ「お、お侍、様・・・・・・」

      フミコ「太夫が・・・・・・連れて、行かれました・・・・・・」

      海未「――なんですって!?」

      ヒデコ「下手人探しは、ただの、口実・・・・・・」

      フミコ「本当は、これをいい機会とばかりに・・・・・・意に沿わない太夫を、無理矢理、自らのものにしようと・・・・・・!」

      海未「・・・・・・!!」

      ヒデコ「お願いです・・・・・・お侍様・・・・・・」

      フミコ「太夫を・・・・・・助けて・・・・・・ください・・・・・・」

      海未「・・・・・・っ!!」

      ギリッ

      海未「――娘さん。貴方は、この方々の手当てを」

      ミカ「は、はい・・・・・・! お侍様は・・・・・・!?」

      海未「綺羅一家のもとに――」

      海未「――乗り込みます」



      36   2017/06/19(月) 00:22:58.83


      ザァァーッ…

       

      ザッ…ザッ…

       

      降り止まぬ雨の中――

      傘も差さずに、海未はひとり、歩く。

       

      海未(――無情)

      海未(この世は――悲しみに、満ちている)

      海未(そう。あの日から――)



      37   2017/06/19(月) 00:24:59.18


      ――かつて海未は、音ノ木藩という小さな藩の城下町に住んでいた。

      父親は、奉行所に勤める下級武士。

      慎ましやかではあったが、父と母と三人、幸せな日々を過ごしていた。

       

      海未には、幼馴染と呼べる友がいた。

      ひとりは、町一番の呉服屋の娘、ことり。

      そして――もうひとり。

      ことりの呉服屋の隣にあった、和菓子屋の娘。

       

      名を――穂乃果。



      38   2017/06/19(月) 00:26:06.26


      三人は、武士や町人という身分を越え、共に過ごし、共によく遊んだ。

       

      穂乃果が、海未の父に、剣の稽古をつけてもらったり。

      海未が、ことりの呉服屋で、綺麗な着物を着させてもらったり。

      海未とことり、そして穂乃果の三人で、穂乃果の店の饅頭を食べたり。

       

      そんな、平凡で、幸せな日々が、ずっと続くと信じてやまなかった。

      ――あの日までは。



      39   2017/06/19(月) 00:27:41.28


      ことりの呉服屋が、野盗の集団に襲われたのは、

      梅雨の、冷たい雨が降る日のことだった。

       

      町の人の話では、ことりの呉服屋は城下町一の店であったから、狙われたのだろうということだった。

      夜半に野盗が忍び込み、家人に気づかれ――

      野盗集団は、家中の人間を、次々と斬った。

      そして、金品を粗方盗み出したのち――

      店に、火を放った。

      燃え盛る火は、冷たい五月雨をものともせず、

      隣の穂乃果の和菓子屋を巻き込んで――全てを焼き尽くした。

       

      ことりの呉服屋も、穂乃果の和菓子屋も、全てが燃え落ち。

      生き残ったのは――偶然、海未の家に泊まりに来ていた、穂乃果とことりだけだった。



      40   2017/06/19(月) 00:29:06.11


      海未『父上・・・・・・父上ぇーー!!』

       

      海未もまた、父を亡くした。

      呉服屋が野盗に襲われた報を聞いた海未の父は、同心として誰よりも早く呉服屋に向かい、

      火を放った野盗に出くわし、奮戦するも、斬り殺されたのだった。

       

      ことり『お母さん・・・・・・お父さん・・・・・・』

      穂乃果『ああ・・・・・・あ、あ・・・・・・!!』

       

      ザァァーッ

       

      ことりと穂乃果もまた、炭の山と化した自分たちの家と、

      焼き殺された家族の亡骸を前にし、悲嘆に暮れていた。

      一夜にして、全てを失った三人の涙雨が――

      とめどなく、流れ続けていた。



      41   2017/06/19(月) 00:30:22.94


      穂乃果『お父さん・・・・・・! お母さん・・・・・・! 雪穂・・・・・・!』

      穂乃果『酷い・・・・・・こんなの・・・・・・酷すぎるよ・・・・・・!!』

      穂乃果『あいつら・・・・・・許さない・・・・・・!』

       

      ガッ…!

       

      穂乃果は――焼け跡に落ちていた、

      誰のものとも知れぬ、焼け焦げた刀を手にし――

       

      穂乃果『絶対に・・・・・・仇(かたき)を、とってやる・・・・・・!!』

       

      ダッ!!

       

      雨の中を――走り出した。

       

      海未『穂乃果っ・・・・・・! どこへ行くのですか!?』

      海未『穂乃果ぁ――!!!』



      42   2017/06/19(月) 00:31:48.91


      それから、遺された海未と母親は、遠い血縁を頼って、音ノ木を離れた。

      家と家族、全てを失ったことりが、その後どうなったのかは、杳として知れなかった。

      刀を持ち、飛び出した穂乃果は、そのまま二度と戻っては来なかった。

      噂では、野盗に返り討ちに逢い、死んだのだろう――とのことだった。

       

      その日から、三年の月日が経ち。

      今から、二年前――海未の母が、死んだ。

      病床の母を看取ったのち――海未は自ら、世話になっていた当時の家を出奔し、浪人となって旅に出た。

      自らの、幼馴染を――探すために。



      43   2017/06/19(月) 00:33:30.46


      ザァァーッ…

       

      海未「五月雨の――」

       

      雨の中。

      海未は、ぽつりと、呟く。

       

      海未「空だにすめる月影に――」

      海未「涙の雨は――はるるまもなし」

       

      海未(あの日から――ずっと、降り続いている)

      海未(私の中の――五月雨は)

       

      そして――

      海未は、綺羅一家の屋敷の、門前に立った。



      44   2017/06/19(月) 00:59:29.32


      ――綺羅一家の屋敷。

      猪口を傾ける、綺羅の親分が――

      傍らの太夫に、語りかける。

       

      ツバサ「――もういい加減、観念したら」

      ツバサ「貴方は、うちの組の者を斬り殺した下手人を匿った――」

      ツバサ「その、償いをしてもらわないとね」

      太夫「・・・・・・・・・!」キッ

      太夫「あのお侍様は、下手人などではありません」

      ツバサ「ふん。どうだか」

      ツバサ「ただ、貴方がそう言い張っても、血の気の多いうちの組の者たちは納得しないでしょうね」

      ツバサ「貴方が償わなければ、あの侍を血祭りにあげてしまうかも――」

      太夫「貴方は・・・・・・卑怯者です・・・・・・!!」

      ツバサ「・・・・・・ふふっ」

      英玲奈「――ツバサ」

      スッ

      ボソボソ

       

      幹部の統堂英玲奈が、何かをツバサの耳元で囁き――

      一瞬、表情が険しくなったのち――

      ツバサは、口の端を上げる。

       

      ツバサ「ほぉ・・・・・・?」



      45   2017/06/19(月) 01:00:41.49


      やくざ「相手はひとりだ!!」

      やくざ「斬り殺せぇ!!」

      ウォォォッ!!

       

      ――矢継ぎ早に斬りかかる、やくざ者達の刀を。

       

      キキンッ!

      ギンッ!

       

      海未は――尽く、受け止め。

       

      ザッ!

      ザシュッ!

      やくざ「ぎゃっ!!」

      やくざ「ぐわっ!!」

       

      腕や脚を斬りつけ、叩き伏せる。

       

      海未「命までは、獲りません」

      海未「しばらくは、大人しくしていてもらいますが――」



      46   2017/06/19(月) 01:01:50.24


      バンッ!

       

      あんじゅ「――はぁい♪」

       

      海未が襖を蹴り破り、

      乗り込んだ広間の中に――いた者は。

       

      海未(確か――幹部の、ひとり)

      あんじゅ「強いわね、貴方。雑魚じゃ相手にならなそうだし」

      あんじゅ「私が――お相手してあげるわっ!!」

      ダッ!!

       

      海未「!!」

      ギンッキィンッ!!

       

      両手に小太刀を持った優木あんじゅが、左右の刃で斬りかかり、

      海未がそれを、かろうじて刀身で受ける。

       

      海未(小太刀の・・・・・・二刀流・・・・・・!?)



      47   2017/06/19(月) 01:03:23.38


      あんじゅ「へえ・・・・・・私の二刀流を、受けるなんて」

      あんじゅ「でも、いつまでかわせるかしらっ!?」

      ギンッ! キキンッ!

      あんじゅ「貴方の剣も、随分速いみたいだけど――」

      あんじゅ「私の小太刀も、速いわよっ!!」

      キキンッ! ギンッ!

       

      矢継ぎ早に左右から小太刀を繰り出すあんじゅの剣撃を、海未はかろうじて受ける。

      そして――

       

      ギインッ!

       

      あんじゅ(そこ――)

       

      右の小太刀を、刀で受けた海未の――

      左に、隙が生まれる。

       

      あんじゅ(もらった!!)

       

      ヒュッ!!

       

      ガキィッ!!



      48   2017/06/19(月) 01:04:41.44


      あんじゅ「・・・・・・っ!?」

       

      左の小太刀で、脇腹を突いたと思ったあんじゅは――目を見張る。

      海未は、咄嗟に刀から右手だけを離し――

      左手の刀で、あんじゅの右の小太刀を受け止めたまま。

      右手で脇差を抜き、左の小太刀を、防いでいた。

       

      あんじゅ(この一瞬の攻防で、咄嗟に刀から片手を離すなんてことが――!?)

      あんじゅ(そんな馬鹿な、)

       

      海未「うあああっ!!!」

      グワッ

       

      海未はそのまま、力任せにあんじゅを押し返す。

      あんじゅの体が海未から離れた、その一瞬を突き、

       

      ザスッ!!

       

      あんじゅ「うああっ!?」

       

      脇差で――あんじゅの、両手の指を、斬りつける。



      49   2017/06/19(月) 01:05:34.95


      あんじゅ「ぐぅぅ・・・・・・ゆ、指が・・・・・・!!」

      あんじゅ「お、おのれ、」

       

      ガンッ!

       

      あんじゅ「―――」

      ドサッ

       

      海未は刀の峰であんじゅの頭を殴りつけ、

      あんじゅは、その場に昏倒する。

       

      海未「死にはしない――」

      海未「しかし――もう、そんなものは、振り回せなくなるでしょうね」



      50   2017/06/19(月) 01:06:51.85


      スタ…スタ…

      バンッ!

       

      さらに奥へと、歩みを進め――

      海未は、奥の間の襖も、蹴り破る。

      そこにいたのは――

       

      太夫「海右衛門、様・・・・・・!?」

      ツバサ「あら――いらっしゃい」

      ツバサ「あんじゅを倒してきたみたいね――流石だわ」

       

      綺羅ツバサ――そして、花鳥太夫。

      その周りの、護衛役のやくざ者達。

       

      やくざ「て、てめぇっ!!」

      やくざ「ぶっ殺してやらぁっ!!」

      海未「――やめておいた方がいい」

      海未「命までは獲りませんが――」

      海未「不自由な身の上になるやもしれませんよ」ギロ…

      やくざ「・・・・・・っ!!」



      51   2017/06/19(月) 01:08:18.12


      海未が凄むと、周りのやくざ者達は、縮み上がる。

       

      ツバサ「あー、駄目駄目。あんた達じゃ、相手にならないわ」

      ツバサ「だから、“相手”は――」

       

      海未「――!」ピクッ

      バッ

       

      ドカッ!!

       

      海未が一瞬、殺気を感じて、その場から飛び退いた瞬間、

      残っていた襖から、勢い良く槍の穂先が飛び出した。

       

      英玲奈「ほぉ・・・・・・?」

      英玲奈「気づかれたか」

       

      襖の裏から現れたのは、

      長い穂先の槍を携えた、幹部の統堂英玲奈――!



      52   2017/06/19(月) 01:09:47.54


      英玲奈「退(の)いていろ」

       

      英玲奈が、周りのやくざ者達に一言呟いた次の瞬間、

       

      ブンブンッ!

      バキドカッ!

       

      英玲奈は槍を振り回し、周りの襖や障子ごと破壊しながら、海未に向かってくる――!

       

      太夫「海右衛門様っ!?」

      ツバサ「ははっ。見えないだろうが、じきにあの侍は細切れになる」

      ツバサ「全く、仕様の無い奴だ。英玲奈、あまり周りの物を壊すなよ!」

       

      海未(くっ、周りの物ごと・・・・・・! 何という馬鹿力!)

      海未(それに、ああ振り回されては、うかつに間合いに入ることも出来ない――!)



      53   2017/06/19(月) 01:10:47.13


      ダダッ!

       

      ザァーッ

       

      海未は、部屋を飛び出し、縁側から中庭に降りる。

       

      英玲奈「ふん――広い場所に逃げたか」

      英玲奈「それでも、同じだ」

      ザッ!

       

      雨が体を打つ中――

      槍を構えた英玲奈と、刀を構えた海未が、対峙する。



      54   2017/06/19(月) 01:12:02.34


      海未「・・・・・・・・・」

      英玲奈「・・・・・・・・・」

       

      両者は、しばし、睨み合う。

      しかし、海未の間合よりも、英玲奈の間合の方が広いのは、自明の理。

      英玲奈も、それがわかっていて――

      僅かに口元に笑みを浮かべ、動こうとした、その刹那。

       

      ドカッ!!

       

      英玲奈「――あっ」

      英玲奈「ああああああっ!!?」

       

      見る者が――目を疑る。

      英玲奈の、左肩に――

      海未の握っていた刀が、突き刺さっていた。



      55   2017/06/19(月) 01:13:46.23


      英玲奈(投げた、だと!? 自らの刀を!?)

      英玲奈(そんな、馬鹿なことが、)

       

      ダダッ!

       

      英玲奈の体勢が崩れた隙を逃さず、

       

      ドガッ!

       

      一瞬で英玲奈との間合を詰めた海未が、英玲奈の眉間目掛け、

      脇差の柄を直撃させる。

       

      英玲奈「―――」

       

      そのまま英玲奈は、ものも言わずに昏倒した。



      56   2017/06/19(月) 01:15:10.03


      ズプッ…

      バッ!

       

      英玲奈の肩から、刀を引き抜いた海未が、

      刀を振るい、刀身の血を払う。

       

      海未「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

      ギロッ

       

      そして――

      視線を、綺羅ツバサと、残ったやくざ者達に向ける。

       

      ツバサ「・・・・・・・・・!」

      やくざ「ひ、ひえっ・・・・・・!!」

      やくざ「え、英玲奈さんまで・・・・・・!!」

      ツバサ「怯むんじゃねぇ・・・・・・何やってやがる!!」

      ツバサ「相手はもうボロボロだ!! 囲め!!」

      ツバサ「全員でぶち殺せ!!」

      やくざ「う、う、」

      やくざ「うおおおおおっ!!!」



      57   2017/06/19(月) 01:16:44.76


      ザアアァーッ…

       

      ――体に打ち付ける冷たい雨。

      刀を抜いた、五、六人のやくざ者が、

      海未を取り囲み、じりじりと迫る。

       

      海未「」ブツ…ブツ…

      やくざ「・・・・・・!? な、なんだ、こいつ・・・・・・!?」

       

      海未「・・・・・・ああ・・・・・・無情・・・・・・」

      海未「この、世界は・・・・・・」

       

      やくざ「こ、こいつ・・・・・・唄って、やがる・・・・・・!?」

      やくざ「舐めやがって!! ぶっ殺せ!!」

       

      その刹那、



      58   2017/06/19(月) 01:19:27.88


      ザスッ!

      やくざ「ぐあっ!?」

       

      一瞬で手を斬りつけられたやくざ者が、刀をその場に取り落とす。

       

      海未「悲しみに・・・・・・満ち、てる・・・・・・」

       

      シュバッ!

      ザンッ!

      やくざ「ぎゃあっ!?」

      やくざ「ああっ!!」

       

      海未「それでも、いい・・・・・・出会えた、ことが・・・・・・」

       

      腕を、脚を、目に映る間もなく、次々に海未の刀が斬り裂き。

      瞬く間に、取り囲むやくざ者を、海未は斬り伏せる。

       

      海未「喜びなの・・・・・・そうでしょう―――・・・?」

       

      ザアアァーッ…

       

      その時――

      屋敷の陰から――血濡れの舞台を、窺う影。

       

      「流石だね――海未ちゃん」



      59   2017/06/19(月) 02:36:28.01


      ツバサ「浪人んんんんっ!!!」

       

      と――その時。

      座敷にいた綺羅ツバサが、立ち上がり――

      傍らの太夫に、銃を突きつけている。

       

      海未「貴様・・・・・・!!」

       

      太夫「海右衛門様っ・・・・・・!!」

      ツバサ「虚仮にしてくれてっ・・・・・・だがこれなら手出し出来ないでしょう!?」

      ツバサ「そこを動くなよ!? 動いたら太夫の命は無い!!」

      ツバサ「今こそ、我が“悪来主一刀流”の剣技、見せて――」

       

      ズブッ

       

      ツバサ「―――」

      ツバサ「・・・・・・・・・え?」



      60   2017/06/19(月) 02:37:52.16


      海未「――!?」

       

      海未は、目を見張る。

      綺羅ツバサの、胸から――

      血濡れの、刀身が生えていた。

       

      プッ

      プシュウウッ

       

      ツバサ「あっ・・・・・・あがあぁぁぁぁっ・・・・・・!!?」

       

      胸を貫いた刀身の先から、血が勢い良く吹き出し。

       

      ズボッ

       

      一気に背中から引き抜かれた後――

      綺羅ツバサは倒れ、絶命した。

       

      太夫「あ・・・・・・ああ・・・・・・!!」

      ガクッ

      ドサッ

       

      見えなくとも――血の匂いと、断末魔の声に、察したのであろう。

      太夫が、意識を失い、その場に倒れた。



      61   2017/06/19(月) 02:39:37.55


      ザァァーッ

       

      海未「あ・・・・・・」

      海未「貴方は・・・・・・!!」

       

      「ふ、ふふ、ふ・・・・・・」

       

      倒れたツバサの背後から、影のように、現れた者。

      ボロボロの着流しを着込み。

      左手は――着物の裾に、隠れ。

      右手に――血濡れの、焼け焦げた刀を握っている。

       

      海未「矢張り――貴方だったのですね」

      海未「“高坂甚内”などと言う、かつての盗賊の名を名乗っていることで、ピンときました」

      海未「“隻腕の甚内”――否――」

       

      海未「――高坂穂乃果っ!!」

       

      穂乃果「久しぶりだね――海未ちゃん」



      62   2017/06/19(月) 02:40:58.59


      穂乃果「それにしても――流石だね、海未ちゃん」

      穂乃果「誰の命も奪ってない。斬ってるのは、腕とか脚とかばかり」

      穂乃果「ひとりも殺さず、ここまで来るなんて――だけど」

       

      ヒュンッ

      バッ

       

      穂乃果が、刀を振るい――

      刀身についた血が、座敷の襖に飛び散る。

       

      穂乃果「甘いよ――悪党は、ちゃんと殺さなきゃ」

       

      海未「穂乃果っ・・・・・・!」ギリッ



      63   2017/06/19(月) 02:42:18.69


      海未「昨夜、やくざ者を殺したのも――貴方の仕業ですね」

      穂乃果「そうだよ」

      海未「“隻腕の甚内”などと呼ばれ――あちこちで、盗賊ややくざ者、侍を殺めているのも」

      穂乃果「そうだよ」 

      海未「貴方はっ・・・・・・!」ギリッ

      チャキッ

       

      海未は――穂乃果に向け、刀を構える。

       

      海未「“隻腕の甚内”が貴方なのではないかと考えてから――私は、貴方の足取りを追っていたのです」

      海未「貴方を――止めるために」

      穂乃果「誤解だよ、海未ちゃん。穂乃果が殺してるのは、悪党だけ」

      穂乃果「盗賊や町の人を苦しめるやくざ、そして裏で汚いことをしている腐った役人や侍共だよ」

      海未「――それでもっ!!」



      64   2017/06/19(月) 02:43:43.71


      海未「私は――貴方を止めねばならない」

      海未「例え、貴方の心が――憎しみで、満ちていようとも」

      穂乃果「なんだ――わかってるじゃない、海未ちゃん」

      ギロッ…

      海未「・・・・・・っ!!」ゾクッ

       

      穂乃果「穂乃果は――憎いの。憎くて、憎くて、たまらないの」

      穂乃果「穂乃果たちから、全てを奪った、悪党も、盗賊も――侍も」

       

      それは――かつての、無邪気な頃とは、似ても似つかない。

      冷え切った氷のようで、相手を射殺すかのような、眼差し――

       

      穂乃果「止められるものなら――」

      穂乃果「止めてみなよ。海未ちゃん」

      ニィィ…

      海未「・・・・・・・・・!!」



      65   2017/06/19(月) 02:44:47.17


      と――

      不意に、穂乃果が、床に倒れていることりのもとへ、屈みこみ。

      そっと、頬を撫でる。

       

      穂乃果「生きてたんだね――ことりちゃん」

      穂乃果「良かった・・・・・・」

      ニコ

      穂乃果「・・・・・・さようなら」

       

      海未「・・・・・・!」ピクッ

       

      そして穂乃果は、再び立ち上がり――海未に、向かい合い。

       

      穂乃果「じゃあ、待ってるよ――海未ちゃん」

       

      ダッ!

      ババッ!

       

      そのまま、驚異的な身のこなしで、

      中庭を走り、塀を駆け上がり、外に飛び降りて行ってしまった。

       

      海未(穂乃果――・・・!!)



      66   2017/06/19(月) 03:31:55.50


      ザァァーッ…

       

      ザッ…ザッ…

       

      海未は、雨の中、歩く。

      穂乃果と、決着をつけるために。

       

      海未(穂乃果・・・・・・)

       

      穂乃果が――どこに消えたのか。

      しかし海未には、見当がついていた。

       

      海未(昔は、よく――私たち、三人で)

      海未(近所の神社の境内で――遊んでいましたからね)

       

      海未が、たどり着いたのは――

      町外れの、寂れた神社。



      67   2017/06/19(月) 03:32:51.13


      すでに、すっかり日は落ち。

      辺りは、澱んだ澱のような闇に包まれている。

      そして、その神社の境内に――

       

      ザァァーッ

       

      海未「・・・・・・穂乃果」

       

      穂乃果「待ってたよ・・・・・・海未ちゃん」

      穂乃果「――会いたかった」



      68   2017/06/19(月) 03:34:08.02


      海未「貴方が消えた、“あの日”からの五年間――」

      海未「貴方の身に、何があったのかは――あえて、問いません」

      海未「その、失われた左腕と――貴方の、凄まじいまでの剣力を見るだけで」

      海未「貴方が、どんなに過酷で、壮絶な日々を過ごしていたのか――わかりますから」

      穂乃果「・・・・・・・・・」ニッ…

      穂乃果「海未ちゃん――あの後、穂乃果はことりちゃんの店を襲った野盗を探し出して――」

      穂乃果「ひとり残らず、斬った」

      海未「・・・・・・・・・」

      穂乃果「まあ、その時、この左手も斬られちゃったんだけどね」

      穂乃果「でも――穂乃果の復讐は、それで終わらなかった」

      海未「・・・・・・・・・」 



      69   2017/06/19(月) 03:35:23.15


      穂乃果「知ってる――? 海未ちゃん」

      穂乃果「あの時の、野盗がことりちゃんの店を襲った一件――」

      穂乃果「町の役人は、“襲われること”を知っていながら、知らんぷりしてたってこと」

      海未「・・・・・・・・・」

      穂乃果「穂乃果が斬った野盗から、殺す前に聞き出したの」

      穂乃果「あの城下町では――頻繁に、役人に対して、商人と、その裏にいるやくざから賄賂が送られていた」

      穂乃果「だけど、ことりちゃんのお父さんとお母さんが、もうこんなことはやめようって言い出した」

      穂乃果「周りの商人たちは、ことりちゃんの呉服屋が城下町一の店だということも手伝って――」

      穂乃果「ことりちゃんの店を、“消そう”と考えた」

      海未「・・・・・・・・・」 



      70   2017/06/19(月) 03:36:53.63


      穂乃果「そうだよ。あの野盗を雇って、ことりちゃんの店を襲わせたのは、町の商人と、その裏のやくざたち!!」

      穂乃果「そして町の役人と奉行所には、あらかじめ金を渡して、見て見ぬふりをするように仕向けた!!」

      穂乃果「だから――知ってたんだよねぇ!?」

      穂乃果「奉行所に勤めてた――海未ちゃんの、お父さんも!!」

      海未「・・・・・・・・・」

      海未「ええ――知っていました」

      海未「しかし父は、むざむざ野盗に襲われることを知っていながら、それを黙っていることに、最後まで苦しみ――」

      海未「上の役人からの禁を破り、ことりの呉服屋へ駆けつけ、そこで命を落とした」

      海未「このことは――病床の母が、亡くなる間際に話してくれました」



      71   2017/06/19(月) 03:38:13.97


      穂乃果「だからと言って――海未ちゃんのお父さんの罪が、消える訳じゃない」

      穂乃果「それから――穂乃果は、思ったの」

      穂乃果「この世から、“悪党”をひとり残らず消してやる――!!」

      穂乃果「盗賊も、やくざも、役人も、侍も!!」

      穂乃果「誰かが傷つく前に――私が、この手で」

      海未「穂乃果、貴方は――!」

      穂乃果「ねぇ、海未ちゃん知ってる?」

      ニヤッ

      穂乃果「近くの町で、侍連中が斬り殺された、って」

      穂乃果「あれやったのも穂乃果。そして、その侍連中は、あの時の城下町にいた役人たちなんだよ!!」

      穂乃果「すごいでしょ? 穂乃果、復讐果たせたんだよ? なのに――」

      チャキ…

      穂乃果「私の中の、“憎しみ”は――まだ、晴れない」



      72   2017/06/19(月) 03:39:17.65


      海未(穂乃果――)

      海未(貴方は――変わってしまったのですね)

      海未(あの頃の、貴方は――もう、いないのですね)

      海未「――ならば」

       

      チャキッ

       

      海未「貴方の中の、憎しみごと――」

      海未「私が、斬る」

       

      穂乃果「出来るかな――?」

      ダッ!

      穂乃果「――海未ちゃんにさぁ!!」

       

      ギイインッ!!



      73   2017/06/19(月) 03:40:15.16


      海未「ぐぅっ・・・・・・!!」

       

      一瞬で間合を詰めた、穂乃果の刀を――

      海未は、かろうじて受け止める。

       

      ギリギリッ

      穂乃果「どうしたの・・・・・・?」

      キインッ!

      穂乃果「――海未ちゃんっ!!」

      ヒュッ

      ガキィッ!!

      海未「うっ・・・・・・ああっ!!」

      キィィン!

       

      鍔競りから弾かれ、間髪入れずに襲い来る穂乃果の刀を、

      これもかろうじて受け、打ち払う海未。

       

      海未(なんという速さ――そして、重さ!!)

      海未(これが、隻腕の剣――!?)



      74   2017/06/19(月) 03:41:16.31


      海未「はぁ、はぁ・・・・・・」

      穂乃果「――所詮、人も殺せない海未ちゃんの剣は、その程度」

      穂乃果「海未ちゃんに――穂乃果の気持ちは、わからない」

      海未「・・・・・・・・・」

       

      ザァァーッ…

       

      海未「わかりますよ――私にも」

      海未「私も――」

       

      スッ

       

      海未「人を殺めたことが、あります」

       

      穂乃果「―――」

       

      ザァァーッ



      75   2017/06/19(月) 03:42:14.64


      海未「母から、事の真実を聞き――」

      海未「父もまた、あの一件に少なからず加担していたことを知り」

      海未「出奔し、浪人となった私は、わからなくなっていた」

      海未「正義とは――悪とは、なんなのか」

      穂乃果「・・・・・・・・・」

      海未「貴方のように、悪人を憎みもした」

      海未「そして、ある時――訪れた貧しい村で、村人たちに請われ」

      海未「村を襲う、山賊たちを――斬り殺しました」

      穂乃果「・・・・・・・・・」 



      76   2017/06/19(月) 03:43:17.31


      海未「しかし、私は――怖くなってしまったんです」

      海未「どういった形であれ――自らが、他人の命を奪ったということに」

      海未「そういった意味では、確かに私は、貴方の言う通り、弱い人間なのかもしれません」

      海未「ですが、私は――弱い人間でいい」

      穂乃果「・・・・・・・・・」

      海未「私が、村人を守るため、人を殺めたこと――正しかったのかどうか」

      海未「未だに、答えは出ていません」

      海未「だから、私は――会って、相談したかった。話をしたかった」

      海未「貴方と――ことりに」

      穂乃果「ふうん・・・・・・」

      クスッ

      穂乃果「優しいんだね――海未ちゃんは」



      77   2017/06/19(月) 03:44:21.76


      穂乃果「だけど――穂乃果は。海未ちゃんみたいには、なれない」

      穂乃果「穂乃果の中に、優しい気持ちは――」

      穂乃果「――もう、残っていないから」

      海未「穂乃果――」

      穂乃果「さ――」

      穂乃果「決着をつけよう。海未ちゃん」

      海未「・・・・・・・・・」

       

      パチン

       

      海未は――無言で。

      刀を、腰の鞘に収める。

       

      穂乃果「へぇ――」

      穂乃果「居合、だね」



      78   2017/06/19(月) 03:45:32.10


      ザァァーッ…

       

      雨の中。

      暗い、神社の境内で。

      二人の、剣士が――対峙する。

      既にお互い、間合に入っている。

      どちらかが動けば――

      一瞬で、終わる。

      それ故――動けない。

      なんの切欠(きっかけ)も無ければ――

      この膠着が、永遠に続くかと思われた――

      その刹那。

       

      「――もうやめてっ!!」

      「穂乃果ちゃん!! 海未ちゃん!!」

       

      穂乃果「!!」

      海未「!!」



      79   2017/06/19(月) 03:46:43.18


      その叫びと、同時に――

      穂乃果は刀を振り。

      海未は刀を抜く。

      穂乃果の刀が、逆袈裟に振るわれる――

      それより、一瞬速く。

      海未の刀が、下から、刀を持つ穂乃果の右腕を斬る。

      雨中に、ぱっと、鮮血が飛び散り――

      穂乃果の刀は、海未に致命傷を与えるには至らず。

      海未の肩を、斬り裂くに留まる。

      海未の血飛沫もまた、花を咲かせるように飛び――

      二人は同時に、地に膝をついた。



      80   2017/06/19(月) 03:48:04.29


      穂乃果「ぐ・・・・・・うぅ・・・・・・!!」

      海未「右腕の・・・・・・腱を、斬りました」

      海未「もう、貴方は・・・・・・今までのように、刀は振るえない」

      穂乃果「海未ちゃん・・・・・・私を、殺すつもりじゃなく・・・・・・」

      穂乃果「最初から、腕だけを狙って・・・・・・!!」

      海未「貴方から、剣を奪うことは――」

      海未「今の貴方を殺すことと、同義でしょう」

      穂乃果「・・・・・・・・・!!」

       

      ことり「海未ちゃん、穂乃果ちゃん・・・・・・!!」

      ことり「もう・・・・・・もう、やめて!!」

      バシャバシャ

       

      花鳥太夫――否、ことりが、その場に駆け寄り。

      うずくまる、二人の体を――かき抱いた。

      目の見えない中、雨中を、何度も転びながら駆けつけたであろうことりの体は、泥にまみれていた。



      81   2017/06/19(月) 03:49:13.85


      ことり「せっかく、また会えたのに・・・・・・こんなこと・・・・・・!!」

      海未「こ・・・・・・ことり・・・・・・」

      海未「貴方は・・・・・・気づいて、いたんですか・・・・・・?」

      ことり「本当は・・・・・・昨日、飯屋で会った時から。気づいてた――海未ちゃんだって」

      ことり「当たり前だよ。海未ちゃんの声を、忘れるはずない――」

      ことり「穂乃果ちゃんだって――!」

      穂乃果「・・・・・・!!」

      ことり「私・・・・・・この、五年間・・・・・・」

      ことり「ずっと、二人に会える時のことを夢見て、頑張ってきたんだもの・・・・・・!!」

      穂乃果「ことり、ちゃん・・・・・・」



      82   2017/06/19(月) 03:50:34.77


      ことり「ね、穂乃果ちゃん――もう、やめよう?」

      ことり「もう――休んで、いいんだよ?」

       

      ことりの、閉じられた両目から――

      大粒の涙が、零れ落ちる。

       

      穂乃果「ことり、ちゃ・・・・・・」

      穂乃果「でも・・・・・・私は・・・・・・」

      ことり「穂乃果ちゃんだけが、憎しみに縛られることない」

      ことり「つらいなら、ことりがそばにいてあげたい。話を聞いてあげたい」

      ことり「だって――ことりだって、つらいから」

      ことり「それに――」

      ポロポロ…

      ことり「穂乃果ちゃんと、海未ちゃんは・・・・・・ことりの、大切な友達だもの・・・・・・!!」

      穂乃果「――!!」



      83   2017/06/19(月) 03:52:28.77


      穂乃果「だけど。だけど、もう、私は――」

      海未「――穂乃果。貴方は、自分の中に優しさは・・・・・・もう、残っていないと言いました・・・・・・」

      海未「ですが――」

       

      ――生きてたんだね、ことりちゃん。

      ――良かった・・・・・・

      ――さようなら。

       

      海未「あの時の、ことりに語りかけた時の表情は――」

      海未「とても、優しかった」

      穂乃果「・・・・・・・・・!!」



      84   2017/06/19(月) 03:55:02.03


      穂乃果「・・・・・・」

      穂乃果「・・・・・・・・・」

      穂乃果「ねえ・・・・・・海未ちゃん」

      穂乃果「もう、私たち・・・・・・あの頃には・・・・・・戻れないのかな?」

      海未「・・・・・・・・・」

      海未「人は――昔に、戻ることは出来ません」

      海未「ですが――」

      海未「前に進むことなら、出来るのですよ」

      穂乃果「―――」

       

      空を見上げた、穂乃果の両目から。

      つつ――と。

      涙が、頬を伝った。

       

      穂乃果「その、言葉――」

      穂乃果「五年前に――聞いときたかったな」



      85   2017/06/19(月) 03:56:43.83


      ――その時。

       

      穂乃果「あ――」

       

      雨が――

       

      海未「――やんだ」

       

      そして――雲が切れ。

      その、隙間から――

      月が、顔を覗かせる。

       

      ことり「月が――」

       

      海未(――五月雨の)

      海未(空だにすめる月影に――)

       

      月の、柔らかい光に照らされながら――

      海未の、意識は――深淵深く、消えていった。



      86   2017/06/19(月) 04:00:16.41


      ――五日のち――

       

      ヒデコ「――調子はどうですか、お侍様?」

      海未「ええ――もう動けますし、大丈夫そうです」

      海未「貴方の方こそ、大丈夫なのですか?」

      海未「私の看病などさせてしまって、申し訳ない」

      ヒデコ「なんのなんの。血は出たけど、かすり傷でしたし」

      ヒデコ「あの位でくたばってちゃ、芸妓は務まりませんや」

      海未「はは――頼もしいですね」

       

      と、布団の上で起き上がる海未のもとへ、

      芸妓のフミコに手を引かれ、ことりがやって来る。

       

      ことり「海未ちゃん――おはよう」



      87   2017/06/19(月) 04:01:12.57


      ことりは、海未の布団の傍らに、すとんと腰を落とす。

       

      海未「ことり――おはようございます」

      ことり「ふふっ」

      海未「何か、おかしいですか?」

      ことり「ううん。昔みたいに、海未ちゃんとお喋り出来るのが、嬉しくて」

      海未「はは――そうですね」

      海未「ところで――何故ことりの方は、黙っていたのですか?」

      海未「最初から、私が園田海未だと、気づいていたのなら――」

      ことり「海未ちゃん――何か、隠したがってるみたいだったから」

      ことり「だから、海未ちゃんから話してくれるまで、黙ってようかな、って――」

      海未「全く――」

      海未「かないませんね、ことりには」



      88   2017/06/19(月) 04:02:16.46


      海未「・・・・・・・・・」

      海未「――何も、穂乃果だけではありません」

      海未「私の手も、血に濡れている――」

      ことり「・・・・・・・・・」

      海未「だから私は、変わってしまった自分を知られるのが怖かった」

      海未「変わってしまった貴方と、どう接すればよいのか、わからなかった」

      海未「ですが――違ったんですね」

      ことり「・・・・・・・・・」 

      海未「変わったとしても――」

      海未「しっかり、話せばいいのだと。わかり合えばいいのだと」

      ことり「――そうだね」クスッ



      89   2017/06/19(月) 04:03:26.95


      海未「――ことり」

      海未「あれから、穂乃果は――」

      ことり「・・・・・・・・・」

      ことり「気を失った海未ちゃんを、置屋に運び込んで――」

      ことり「気づいた時には――もう、いなくなってたんだ」

       

      ことりは、顔を伏せ、

      悲しげな表情を浮かべる。

       

      海未「そう・・・・・・ですか・・・・・・」

      ことり「穂乃果ちゃん、海未ちゃんよりも、酷い怪我だったのに・・・・・・」

      ことり「もっと、色んなお話、したかったのに・・・・・・」

      海未「・・・・・・・・・」



      90   2017/06/19(月) 04:04:32.30


      ことり「ねえ――海未ちゃん」

      ことり「穂乃果ちゃんの中の憎しみは――晴れることは、ないのかな?」

      ことり「また――誰かの命をとるようなこと、しないかな?」

      海未「・・・・・・・・・」

      海未「――それは、わかりません」

      海未「憎しみが、易々と消えることのない感情であることも事実」

      海未「ですが――」

      海未「私は、穂乃果の涙を、信じたい」

      海未「そしてまた、穂乃果が暴れるようなことがあれば――」

      海未「――私が、必ず止めてみせますよ」

      ニコ

      ことり「海未ちゃん・・・・・・」



      91   2017/06/19(月) 04:05:39.95


      海未「ところで、この町は、これからどうなるのですか?」

      ヒデコ「綺羅一家の親分が死んで、一家もほぼ壊滅状態」

      フミコ「正直、町はまだ、混乱しています」

      ヒデコ「だけど――みんな、張り切ってますよ。“悪来主”は、もういない」

      フミコ「これから、やくざ者に負けないような町を、作っていくんだってね」

      海未「そう――ですか」

      海未「前に進んでいるんですね――この町も」



      92   2017/06/19(月) 04:07:17.62


      ――そして、その日の午後。

      出立の支度を整えた海未を、ことり達が見送る。

       

      ヒデコ「もう、行ってしまわれるのですか?」

      フミコ「もう少し、ゆっくりされていても・・・・・・」

      海未「皆さんが大変な中、あまり長居もしていられませんからね」

      海未「それに――私は、雨宿りをしようと、立ち寄っただけですから」

      ミカ「あの――お侍様、ありがとうございました!」

      ミカ「お侍様のお陰で、この町は・・・・・・!」

      海未「いえ――私は、大したことはしていない」

      海未「せいぜい、とろろ飯の、御礼程度ですよ」

      ニコ



      93   2017/06/19(月) 04:08:43.34


      ことり「・・・・・・・・・」

      ことり「――あの、海未ちゃん」

      ことり「海未ちゃんさえいいなら、私・・・・・・!」

      海未「・・・・・・・・・」

      海未「穂乃果を――迎えに行かなければなりません」

      海未「もう一度、穂乃果と、しっかり語り合ってみたいんです」

      ことり「海未ちゃん・・・・・・」

      海未「そして、穂乃果を見つけた、その時は――」

      海未「捕まえて、ふん縛って。一緒に、帰ってきますよ」

      海未「――また、ここに」ニコッ

      ことり「・・・・・・!!」

      ことり「うん・・・・・・うん・・・・・・!」



      94   2017/06/19(月) 04:10:06.01


      ザッ…ザッ…

       

      フミコ「さようなら〜!」

      ヒデコ「お達者でー!」

       

      町を後にする、海未の背に向けて、

      各々が、声をかける。

       

      ことり(海未ちゃん・・・・・・穂乃果ちゃん)

      ことり(待ってるからね。ことり・・・・・・!)

       

      ひょいと、飯屋の娘が、

      雲の晴れた、空を見上げる。

       

      ミカ「ああ――」

      ミカ「雨も、上がった」



      95   2017/06/19(月) 04:11:43.99


      ――人は、昔には戻れない。

      しかし、前に進むことは出来る。

       

      どんなに長雨が続いても、

      止まない雨は無い。

       

      五年前のあの日から、ずっと五月雨が降り続いていた海未の心に、

      久方ぶりに、爽やかな風が吹いた気がした。

       

      雲が晴れ、太陽が照りつける空を、

      海未は、眩しそうに見上げる。

       

      海未「ああ――」

      海未「もう、夏なのですね」

       

       

       

      ――了――



      96   2017/06/19(月) 04:12:31.26


      μ’sの二年生組主演のなんちゃって時代劇風演劇でした

      お目汚し失礼しました



      98   2017/06/19(月) 11:00:06.27


      盛大に乙
      こういう穂乃果ちゃん好き



      99   2017/06/19(月) 20:04:21.55



      人を選ぶ作品だと思うけど個人的にはなかなかの良作だった
      地の文ありでも読みやすかった



      100   2017/06/19(月) 20:04:21.55

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        引用元:http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1497796022/

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